新・カチンコ日記2

根無し草男の映像日記

二歩

7月19日
うちでは息子が自宅で
大便をするとトイレのカレンダーに
トーマスのシールを貼ることになっている。
つまり、カレンダーをみれば
息子が便秘気味なのか
調子が良いのか悪いのかが
一目瞭然となっている。

さて、都合、自分が用を足す際
否が応でもそのカレンダーが
目に入ることになるのだが
そうして、考えて見ると
自分も息子と全く同じサイクルで
用を足しているのがわかる。
毎日ほぼ同じものを食べているのだから
その排便サイクルも似てくると思われるのだが
これか自分が大人だからなのか
息子がした後に便意をもよおすのだ。
別にこの現象に不満があるわけではないんだが
どういう訳か先を越された感を持ってしまう。

何を自分の息子に対して
対抗心を燃やしているのか!
と言われればそれまでだが、
同じ男なのだから
今でなくとも
いずれ、対抗することになるはずだ。

いや、反抗かもしれない。

最近は特にその反抗心というか
反骨精神のようなスピリットを感じる。
親=反対勢力のような扱いというか…

ちょうど昨日のことだ。

現在、子供二人ともに
鼻水からくる中耳炎になっており
下の子なんかは膿を切ったりしていて
ほぼ毎日のように耳鼻科に通っている。
で、そのあおりを受けた形で
息子を受診させたら
案の定、中耳炎一歩手前であった。
そのために、現在は二人とも
毎日耳鼻科へ通うはめになっている。

さて、ここで問題だ。
耳鼻科に行けば
原因である鼻水を吸引しないとならないし
中耳炎の具合を見るために
耳の中も調べないとならない。
また、鼻水が風邪からきているので
喉の奥も調べないとならないときている。
この3つの器官を診察するのが
ここ数日の大問題なのだ。
まず、下の子は
病院に近づくだけで火が着いたように泣く。
着いてから出るまで泣きっぱなし。
また、親が抱きかかえて
押さえつけないと暴れて手がつけられない。

が、とはいえ、まだ2歳前の乳児だ。
ちょっと力を込めれば
なんとか押さえつけることはできる。

で、問題は3歳を過ぎ
幼稚園に行きだして体力腕力を
メキメキと付け始めた息子である。
いくら、行く前に泣かないと約束しても
行く前にスーパーに寄ってトーマスラムネを
買い与えてご機嫌を取っても
ほぼ娘と同じ状態になってしまう。

それで、昨日なんかは、
スーパーで買い物した後に
息子が突然こう言い始めた。

「あのさ、ちょっとウチに帰って
 お菓子食べてからにしよーよ」

「は?お菓子は病院に行って
 帰ってからでしょ」

まあ、ほぼ、僕のこの台詞と同時に
自転車に座った息子が泣き出した。
そして、暴れだす。
あんまり暴れると自転車が倒れて危険だ。
が、どんなに口で言っても
息子の耳には届かない。
仕方がないので相撲で言う
ねこだましをする。
ハッとなったところで、

「おちつけ!いいか、次は病院に行く。
 約束しただろ!」

おそらく、3歳児と約束しても
その拘束力なんてもんは
ほぼ無いに等しいのだろうし
その約束を反故にされたからといって
あんまり目くじらを立ててはいけないのだろう。
が、見事なまでのあばれっぷりで…
怒ろうかと思ったが、
あんまりにも見事だったもので
思わず笑ってしまった。

鼻水はダラダラ出すは
涙はとめどなく出ているは
手足をカブトムシをひっくり返した時みたく
バタバタさせているは
ライブハウスの若者みたく
ヘッドバンキングして
首がもげそうなほど。

すでに自転車につなげておいたので
ほっておいて、そのまま出発した。

「助けてー!」

「ママー!」

「いやだー!」

と、叫ぶもんだから
誘拐犯に見える可能性すらある。
だから、

「病院行くんでしょ!」
「いやだー!」

「約束したでしょ!」
「助けてーママー!」

と、息子にではなく
周りに聞こえるように説明的な台詞を言う。

ああ、こういう時に
説明台詞が出るんだな。
ふむふむ、メモメモ…

メモを出そうとたら、
今度は後ろに座っていた息子が
俺の背中を殴るは蹴るはで…
思わず、自転車が右へ左へ…

「暴れるな!危ないぞ!」

なんとか、根性で病院に。


「降りない!○○くん
 自転車から降りない!」

「そうかわかった」

と言いながら、誘拐犯よろしく
肩に息子の腹がくるような形で
担ぎ上げて病院内へ。
ジタバタジタバタする
生き物を抱えて診察室へ入る。

「大変ですねー」

と医者が言っていたが
それに対応する暇などない。
肩口で暴れる息子は
俺の肩に噛み付いてまでも
この状況を打破したいらしい。
が、どんなに暴れてもどんなに泣き叫んでも
この現状は変えられない。



キン肉マンの底知れないパワーは
火事場のクソ力と言われており
その力でありとあらゆる
凶悪超人を倒すほど威力があった。

今、病院の椅子で
俺に抱きかかえられている息子は
この『火事場のクソ力』を出している。
本気で押さえつけないと
とてもじゃないが制御できやしない。
看護婦さんも手伝ってくれるけど
両手で腰から力を出して
がっつりと頭を掴まないと
耳や鼻、まして喉を医者に
向けさせるなんて不可能である。

改めてキン肉マンはすごい。

いや、息子の秘められた力に驚いた。
すでに3歳であんな力を持っているとなると
すでに、うちの奥さんが
息子を耳鼻科に連れていくのは
富士山にも登ったことのない奴が
チョモランマに登るようなもので
お話しにならないだろう。


これから、時間をかけてでも
病院で暴れないよう、泣き叫ばないよう
話しをしていかないとならない。

「うん、わかった。もう泣かない」

って言葉はすぐに出る。
が、その言葉に本心はない。
すでに病院に行った後、
行かない日に
何を言ったってお構いなしなんだから。


その時、その時の感情と欲望に
子供は支配されている。
それは言い換えれば純粋だからこそ
自分で自分に抗うことができないのだろう。
悪い言い方をすれば
すでにこの年齢の段階で
その場しのぎの嘘をつき
その場を取り繕い
問題を先延ばしにしている。

そういう意味・部分では
すでに大人も子供も大差ないのだ。





そう、企画を書き上げて
次の一手を打たないとならないのだが

問題を先延ばしにしている俺がいる。

親が二歩を打てば
子供も二歩を打つ。





じゃ!