新・カチンコ日記2

根無し草男の映像日記

罠 その4 (5)

8月10日
イベントVPのMAを明日に控えた俺は
昨日のCM撮影香盤表の続きに没頭していた・・・

結局、打ち合わせが終わったのは深夜3時。
途中からは香盤の直しをしつつの作業であった。
もう少し簡単な作業を予想していたのだが
反して大きな問題というか宿題というかを
突きつけられたのである。
詳細なことは書いてはならないのだが
簡単な言葉で置き換えてみると
『スタイル』の違いということじゃないかと思う。

その『スタイル』というのは
撮影現場の進め方であったり、
撮影という行為自体の動かし方でもあったりする。
撮影日数が1日なら
この『スタイル』の差はあまり苦にはならないのだが
2日になった段階で、大きな開きがあることに気づく。
僕は、考え方として2日をフルに、
また楽に撮影できるような香盤を書く。
最悪は予備日を使って撮影する方法論だ。
だが、会社というのは往々にして逆の考えだ。
なるべく初日に多く詰め込んで2日目を楽な香盤にする。
もし、初日に残が出ても2日目で処理できるように。
また、どちらかが曇った場合に
曇天対応できるカットを集めておく。
つまり、いかにして雨が降るという最悪な場合以外には
予備日を使用しないという方法論である。

僕はどちらも間違ってないと思うし
どちらかと言えば会社の考えが正しいとも思っている。
だが、書いてしまう香盤はそうではないことが多い。
ここで、喧嘩をするか、従うか、
従うフリして従わないかは
時と場合によって異なる。

え?今回?

今回は両方の香盤を提出することにしました
提案という方法を取り、
選んでくれという形です。
どちらの香盤にも潜む
ネガティブな問題も列挙してあります。
逃げと言えばそうかもしれません。
しかし、今回はこの方法がベストだと考えた結果です。

撮影現場は生き物のようであり
常に変化し大きくなったり小さくなったりします。
毎回同じ方法を提出しても何の意味も無いのです。

ま、この方法論にたどり着くまで
朝から考えて23時までかかりました。

嘘です。

今日は、昼から新宿の高島屋で行われている
機関車トーマス 絵本原画展』に行ってきたのです。
息子が大のトーマス好きだからという名目ですが
1歳半の息子が絵本の原画を見ても
何の反応も無いのはわかっていました。

僕が行きたかったんです!

そう、僕自身が絵本の原画を見たかったのです。
行ってみて本当に良かった。
コピーや印刷でない『原画』が飾られているんですよ。
普段、絵画など見ない僕ですが
今回は違います。

とっても素敵でした。

作家によって、少しづつ違う機関車たちの表情や背景。
それぞれの思いのつまった素敵な原画でした。
また、原作者直筆のトーマス絵本があったのが良かった。

少し話しがずれますが、
トーマスのお話しというのは
元々、原作者の神父がはしかにかかって
ベットから動けない息子に
語って聞かせた物語が発端なのです。
何度も何度も語るうちに、
お話しはどんどん広がり色々な機関車の登場する
素敵なストーリーが完成したそうなのです。

つまり、
神父さんが息子のためだけに作った絵本
展示されていたのです。
その絵本の完成度を見て

どれだけ、神父さんが息子さんを愛していたか
どれだけ、機関車を愛していたかが想像できました。


僕にそんなことが、
        できるのでしょうか?

実は、息子が生まれてすぐにある計画をしたんです。
現在は頓挫して、ほっぽりっぱなしですが。
浦島太郎のお話しを僕なりの解釈を入れて
現代語で面白おかしく書き直してやろうと思っていたんです。
まあ、神父さんと同じようなことですな。
違うのは頓挫してしまったということですがね。
浦島太郎が登場して、
亀を助けるとこ辺りまでは書いたんですが・・・

いつ、完成するんでしょうか?
聞いても分からないですよね。
俺が書かないとなんだしね。

で、感動してたんですが、
息子は当然ならが、
別に展示してあったNゲージトーマスに夢中。
絵本どころじゃない。
入口にあった原画写真のビデオで
まず5分は動かない。
絵本の原画はほとんど素通りし
Nゲージで5分固まり
また、絵本を素通り
Nゲージを見つけて5分固まり・・・
最後はトーマスのおもちゃ売り場で
完全な足止め状態。
ま、まあ、予想はしていたけどね。

て、ことであんまり良く見られなかったので
原画展の本(1200円)を購入する。
今後、息子と一緒に楽しむつもりだ。

で、自宅に帰って香盤作成か?

いや、いや、今日はまだあった。
自宅に帰ると、
郵便ポストに宅配便の不在届けが。
何か送るとも言われてないし、
そんな予定はなかったはずだ。
差出人は映画学校時代の同級生。
しかも、冷蔵品で送られてきている。
全く、意味不明の代物だ。
さっそく、電話してみると
すぐに届けてくれるという。

便利な時代になったもんだ。

宅配の兄ちゃんが抱えて持った箱は
想像していたよりも遥かにでかい。
な、なんだ?

『ホタテ(生)』って書いてある。

開けてみると、手紙も何にも入っていない。
中身はごつごつした貝殻のホタテがどっちゃり。

「え?ほ、ほたて?それも生」

「なんで?つーか、どうして?それも大量に!」

手紙もなんにも入っていないし
どんな目的で、どんな用途でホタテなのか?
皆目検討もつかない。
それも、数が尋常じゃない。
うちは、俺と奥さんと息子の3人だ。
3人と言っても一人は1歳半の幼児。

なのに、ホタテ貝(生)30杯って!

多くないか?多すぎやしないか?
食べれるのか?食べきれるのか?
大体、冷蔵庫にそんなスペース無いぞ!

俺は慌てたというよりも愕然とした。

× × × × ×

ダーツバーにいる。

リンクにある『丸い卵も切りよで四角』の作者H君とだ。
このH君も最近ダーツにはまり始めたようなので

「じゃ、投げてみようか?」

って感じで誘ってみたのだ。
時間的に言うと、
ホタテの来襲を受ける前に電話した。
二人でダーツを投げながら
最近の仕事の話しや、
昔話を色々する。

「で、さ、H君ホタテ好き?つーか、いる?」

「え?ど、どういうことですか?」

「あげるから家に来なよ」

「え?」

「沢山あるからさ、10杯?20杯はいけるよね?」

「ええ?いけないっすよ!そんなにいりません」

「遠慮がちなだぁ H君は。ははははは!」

× × × × ×

俺は台所から大きなビニール袋を出し
ホタテを次々と詰めていった。

「新鮮だからさ、生だから」

「は、はい・・・」

ビニール袋はホタテでパンパンだ。
ホータテをなめるなよ♪って感じだ。

「氷も入れよう。夏だからね。やばいし」

「はい、ありがとうございます」

「ビニール二枚重ねの方がいいか」

ああ、不審物だよ。
H君電車の中に不審物持ち込んでいるよ。
中はホタテなのに・・・
明らかにホタテに見えないよ。
潮のにおいのする、不振物だよ。
やばいよ、やばいよ。

でも、僕は大助かりさ。
30杯もあったホタテが20杯に減ったしね。

ありがとう!H君!
またダーツやろうね。

× × × × ×

台所から焦げた醤油に良い匂いが漂ってくる。
俺は、3つほどホタテを網に置いて焼いている。
透明で清らかなホタテが徐所に白くなり
大きかった体が熱を吸い込み
小さく小さくなっていく。
同時に、少し垂らした醤油が
ホタテ自身の身体に染みこんでいく・・・

僕が酒を飲む人間なら
ここですでに3杯は酒を飲んでいたことだろう。

だが、俺は下戸。

一適だって酒は飲めやしないし、
飲みたくもならない。

ウーロン茶をがぶ飲みしながら
とろけるような醤油に匂いに酔っていた。

これを食ったら香盤を書こう!

すでに22時を過ぎそうだが
まずは、ホタテだ!
とりあえず、今日、3杯食って・・・
明日も3杯食って・・・その次の日も・・・

え?何日ホタテよ!
毎日が夏休みならぬ
毎日がホタテ日和!

万歳!

じゃ!

■宅配便って中身によっては罠じゃん!