新・カチンコ日記2

根無し草男の映像日記

うまくいかない日

1月21日
いやぁ、うまくない。
実にうまくないよ

今日は色々あったが、その殆どがうまくない。

8:00am
ロケハン出発。
昨日、夜が遅くて寝ると遅刻がやばかったので
徹夜して会社に向かう。

が、当の制作部チーフが大遅刻。
結局予定より10分遅れでの出発になる。

なんだよ!だったら俺だってゆっくりしてたいよ!

まあ、俺も遅刻をしない訳じゃないので
あまり大きな声では言えないが。

10:00am
千葉の現場に到着。
到着するがチーフが来ないとお話しにならないので
スタッフ全員でうどん屋に直行する。
朝の10時からうどんを15人も食べに来ることなどないのか
店のおばちゃんはテンパる寸前でうどんを茹でていた。

揚げたてのかきあげを頬張っている時
チーフが到着する。
かきあげが思いのほか旨かったので
怒る気が起きない。

「じゃあ、ロケハンしますか?」

満腹と睡眠不足で猛烈に眠かったが
ロケハンが今日のメインなので
現場を検証して回る。
前回も撮影した場所であるため
大きな問題もなく、さらりと初回のロケハンは終了。

「次行こう、次!」

ゴールデンマイクロに1時間ほど揺られて
次の現場に向かう。
今日は思いのほか天気がいい。
雲が少なすぎて面白味がないが
撮影するには最高の天気じゃないだろうか?
こんな日にロケハンなんて・・・

ジンクスというか、ロケハンに出て良く言われることは
ロケハンの天気が良すぎると本番当日に天気が悪い だ。
今回もそんなジンクス通りにならないことを祈る。

1:00pm
次の現場に到着する。
降りた瞬間に村本さんが

「無いな」

「え?無い?」

そう、つまりここじゃないってこと。
来る前に写真で確認を取ってから来ているのだけど
やっぱり現場に来て見ると
写真には写らなかったものが見えてくる。

じゃあ、次だ次!と言ってすぐに移動できなかった。

何故か?それは、捜している場所が難易度の高い場所であり
簡単な交渉で撮影できる所ではなかったからだ。
コーディネーターチームは千葉や東京の
ある場所を約300から400リサーチをかけ
やっとの思いでこの現場をはじき出したのだ。

でも、そんな思いや努力は全く関係がない。

”無いものは、無い”

撮影する場所。ロケーションは映像の要である。
あるもの写すのが商売であるがため
ロケーションの問題は常に付きまとう。
特に、また、村本監督はロケーションを相当重要視する。
そして、また、ちょっと見ただけで、すぐに判断してくれる。
裏から見たり横から見たりと色々探ってみたけれど
初見での”無い”は一向に変わらない。

もし、僕が見て納得できないような”拒否”であれば
あの手この手で”無い”を”有り”に変える努力をするのだが
俺自身もここを見た印象は悪かった。

”うーん、写真と全く違うね”

「ここで撮影することは、
  相当な覚悟とリスクを背負うことになるな」

僕は思わずつぶやいてしまった。
村本さんは早々にゴールデンマイクロに帰って行く。
もう、早く、次を見せろと言う感じだ。

が、すぐに新しい物件は出てこない。
無理して行くことも可能ではあるが
ここで行ってしまって、
もし、OKが出れば出たで
嬉しいことは嬉しいが、
同時に強力で重い荷物を背負わなければならないだろう。
それは、僕ら演出部にとっても、制作部にとっても得策じゃない。

「○○くん。仕切りなおそう、スタッフのスケジュール確認、
            あ、あと、裏で動いている○○さん呼び出して!」

「駄目?」

「うん、駄目だね。ちょっと特異すぎる、もっとステレオタイプな感じがいいらしい」

「うーん。○○行ってみる?」

「いや、でもそこは、○曜日駄目なんでしょ?」

「そうなんだよ、なんとかまた交渉して数時間だけでも借りるって手はあるけど」

「○○さん、それは危険。もし、もう一つを見て見て、GOが出たら・・・」

「・・・」

「かなり重い荷物を背負うことになるけど。いいかい?」

「うーん」

「俺は、無理してやばいロケ地をロケハンするよりも、
再度リサーチして再度ロケハンを組む方がいいと思うが」

「だよね。そうだね。そうしよう。じゃあ、僕は合流しないでリサーチに出ます」

「おう、よろしく!」

俺は、ゴールデンマイクロに戻り
メインスタッフに今日のロケハンの中止を案内する。
無駄に動かずに、帰りましょう。

「ロケハン再設定します!」

ゴールデンマイクロはまた東京へ向かって走りだした・・・

8:00pm
麻布。CM打ち合わせ。
とてつもなく眠い。
バスの中で軽く眠ったのだけど
そんなちょっとの睡眠じゃあ、
この眠たさの解消にはならない。

しかし、初対面のスタッフが大勢いる打ち合わせで
うたた寝でもすることはできない。
制作会社社長自らがプロデューサーを努める大作CMなんだこれは。
だいたい、僕を呼び出したのは、その社長だからさ、

「長谷くん!よろしくね!ビシビシ頼むよ!」

なーんて言われてしまったからね。
ビシッビシッやらないとさ。
社長の顔を潰す訳にはいかないからね。

「が、頑張りまっす!(ただ、今日は眠いです)

「長谷くんにかかってるから!」

「うっす!頑張りまっす!(猛烈に今眠いけど)

「現場は長谷くんが居るから安心だね」

「うっす!やれるだけのことはします!努力します!(眠いけどね)

僕の目の前に睡魔という悪魔が立ち
二本の指で僕のまぶたを下に降ろそうとしている。
優しく、優しく・・・
睡魔はゆっくりと僕を椅子の背もたれに寄りかからせ
更にまぶたを下に押し下げてくる。

負けるか!がんばるぞ!頑張れ俺!

この努力を現場で生かせればなと思うくらい頑張った。
僕は、自分の頬をビンタして目を開かせる。
集中しろ俺!話を聞き逃すな俺!
予定表に書き込みをしていたが
気が付くと

”○○時、集合ξ・・・”

わぁぁぁっ!なんだよ ”ξ”って!
何を書いているんだ俺は!
しっかりしろ!俺!
寝るな、寝たら死ぬぞ!
た、隊長、自分はもう駄目であります!
睡魔という極悪非道な奴が
自分を、自分を、う、うわわわわわわわっ!

!!

寝てた?俺、今寝てなかった?
大丈夫?
恐るべし睡魔。
至上最大の敵、睡魔。
この悪魔に魅入られたら最後
眠るまで、ガンガンに襲われてしまうんだ。
それも、話が大事なところに差し掛かってくる度ごとに
ポイントで襲い掛かってくる。

うわわわわわわわわわわっ!

や、やめろ!さ、触るなっ!
俺を睡眠やいざなうのはやめろ!
お、俺は ま、負けないぞ!

パンチ!パンチ!!パンチ!
自分の顔にパンチ!
睡魔退散!睡魔退散!
う、くそ、どうらやら俺は悪魔に魅入られてしまったようだ。
もう、こうなるとはっきり言って勝ち目はないに等しい。
どうする?どうする俺?

あ、そうだ!トイだ!トイレで顔を洗うなり
座って眠るなり・・・いや、トイレで寝れるわけがない!

う、うわわわわわわわっ!

もう、もう、だ、駄目だ・・・
お、おやすみなさい・・・