10月17日
一時はどうなるかと思われた
今年最大級のCM撮影。
前日は演出部の結束力もあり(?)
ほぼ予定通りに
撮影を終了させることができた。
が、その後に待ち受けていた
衝撃的な事実とは!
10月16日
撮影最終日。
昨日のスタンバイと同じ体制で臨む。
4時30分出発。
僕はまた真っ暗な現場に到着し
撮影部や照明部の準備を眺めていた。
今日の撮影で最も重要なことは
俳優部の”出し”だ。
『出し』とは忙しい役者さんには
いつも付きまとう問題であり
非常にやっかいな制約でもある。
まあ、つまり、別に
仕事が入っているということだ。
○時から○時までNGとか
○時マデに現場から出すとかね。
常に”押し”たり”巻いたり”する撮影現場にとって
これは非常に重たい問題である。
”出し”の約束はほぼ絶対であり
これを守らないと、
逆の立場になった時にこちらが困るからだ。
同じ撮影をする者の同士として
守りきらないとならない大切な約束なんだ。
今日の出しは8時30分。
その時間までに撮影を終えてないと
俳優部は次の仕事に間に合わない。
しかも、その俳優部は午後に
こちらに戻ってきてもらわないとならない。
”再入”ってやつだ。
”出し”て”再入”してもらうためには
きっちりとこちらが時間を守らないといけない。
午後の日没ギリギリを狙った撮影なので
少しでも押しで”再入”されると
こちらは大変にマイってしまうから。
そういう訳で、監督には大変に申し訳ないが
「△□さん○時出しですから」
と、言わない訳にはいかなかった。
もちろん、
「ええー!!」
と言われることはわかっている。
「なんとかしろよ!」
と言われるのも覚悟の上だ。
なんとか出来ないことも監督はわかっている。
すいません、監督。
が、大変なことに準備に変更が出た。
一度決めたものをひっくり返されたのだ。
「え?マジで?」
やばい、間に合わない!
既に時間は8時を過ぎている。
この撮影スタンバイだと、
どうしても10分以上の時間がかかってしまう。
つまり8時20分にはshootしないと駄目だってことだ。
しかも、それはたった一回で
OKを貰わないとならない過酷な条件。
演出部は口だけである。
何かをするのではなく
簡単に言うと”やってもらう”のが仕事だ。
自分では何もできないのが演出部なんだ。
こういう時間に制約がある時でも
ジタバタするだけで、なーんにもできやしない。
手伝いたくても足手まといになるだけで
見ているのが精一杯。
8時15分が過ぎた。
もう、これは間に合わないかもしれない。
20分になったら強引にでも進めるしかない。
それには各パートの技師にOKを貰わないと・・・
嫌だなぁ、こちらのミスもあっての遅れだのに
準備途中でやらせてくださいと言わないとならないなんて。
怒られるか、文句を言われるかに決まっている・・・
ちぇっと、技師連中のところへ歩きだしたその時だった。
「長谷くん!できたよ!やろう!」
「はい!スタンバイしまーす!
演出部マクよ!マイて行くよ!」
時間は?
8時20分!
行こう!行こう!行こう!
カメラカースタート!
× × × × ×
僕は無事に送り出した俳優部の再入を待っていた。
日没2時間前。
照明部から日没の1時間前から
スタンバイさせて欲しいという
オーダーを受けていた僕は
俳優部の再入時間を1時間30分前に設定していた。
メイクや着替えのことを考えると
30分前INが妥当な線だろう。
僕は来るはずの電話をジリジリ待っていた。
日没をスタッフは待っているため
すでにいつでも撮影ができるように
カメラや照明のセッティングは終わっていた。
後は、日没のいい時間を狙って撮影するだけ。
後は俳優部が揃えば全く問題なし。
すぐにでも撮影ができる状況にある。
が、まだ連絡がない。
どうした!
一体どうしたんだ!
こないのか?
これないのか?
何で連絡がない?
つーか、電話に出ない?
待てよ・・・
ヤバいのか?
と、僕の頭が予備日を使うことを
考え始めたちょうどその時
ポケットの中の電話が鳴った。
俳優部担当の三浦さんからだ。
「今さっき連絡があったよ。
もうすぐ着くってさ、○○さん」
「OK!わかった!充分間に合う!」
つーか、何で僕に電話がないの?
あー、あれだよね、僕が忙しいと思ってさ
ほら、きっとそうだよ。
僕の電話を教えて、
三浦さんの電話は教えてないのに・・・
あ、そうだよ、きっと聞いたんだよね。
うん、いや、教えたんだよ、きっとさ、
優秀だもん、三浦さんはさ・・・
え?寂しいって?
あー、寂しいさ!
電話を握り締めて汗かいてたんだぜ、こっちは!
アリの心臓なんだぜこっちはさ!
ちぇっ!
まあ、でも充分過ぎるくらい
間に合っているからいいさ。
× × × × ×
ナイターを含めて20時には撮影は終了した。
ふう、これで、全ての撮影が・・・
あ!
残っている!
まだ、残っているよ!
初日にこぼした撮影分が!
まだだよ、まだまだ終わらないんだよ!
史上最大の作戦には05があるんだ!