新・カチンコ日記2

根無し草男の映像日記

目立つエキストラ

4月24日
10時40分にライターのモモエと待ち合わせたのだが
奴の到着は10時45分だった。

ちょっと腹が立つ。


「お前が40分とか言って45分に来るなよ」

「あ、ごめん」


俺はすでに10時15分には待ち合わせの駅に着いていて
予算のあまり無い映画だからと
朝昼兼用で駅で立ち食いそばを食べていた。
押してたら昼飯なんて夕方になるかもしれないしね。


で、現場に到着。
そこはある有名なメイド喫茶
近頃、そこかしこの街でも急増しているアレだ。
入店するといらっしゃいませじゃなくて
おかえりなさいませ、ご主人様とか言われてしまうアレだ。
プライベートで行く機会など無いし
ましてや一人で行くなんてことはありえない場所。
仕事としてでないと決して、俺は行くことはなかっただろう。


入ってみると、当たり前だが
スタッフが準備の真っ最中で
メイドのおかえりなさいは無い。
だが、出演者の方々はメイド姿で

「へー!」

と思わず関心する。
これがメイド喫茶か!


で、ここから俺の初エキストラが始まった。
今まで、何度となくエキストラを使った撮影はしてきた。
何十人から何百人、千人近い数を動かしてきた。
だが、今日はそのエキストラをする。
メイド喫茶の客という設定だ。
俺のような風体の人間が
この場所にそぐうかどうかは分からないが
というか完全に浮いていたが
早速、エキストラ開始だ。

助監督は知り合いのカッツ氏。

促されるままに、テーブルに着席する。
あまり具体的な指示は無いが
座って喋ったりする芝居をすればいいのだろう。
俺はモモエと通常の会話をする。
なんのことはない、友人と会話するだけだ
楽勝じゃないか!



が、1時間か2時間くらいすると
どうも行き詰まり感を感じたというか
ムズムズする。
エキストラをしていると
現場を引いて見ることができる上に
こちとらその道のプロだ。
問題箇所や手際、段取りが手に取るように見える。

『ううう、仕切りたい・・・』

いや、駄目だ。
今日はエキストラに徹するんだ。
これは人の現場だ。
俺の現場じゃない。
たった数時間俺が仕切ったところで
混乱を招くだけだ。

『ううう、ううう』

ついつい、カッツ氏に問題箇所を指摘してしまう。
駄目だ、これはいかん、越権行為だ。
自分を律しなければならない。


エキストラをしてみて、よーくわかったことがある。
スタッフや役者は今日のスケジュールや
今日の撮影分量を知っているが
我々エキストラは、そんなことは知らない。
細かい内容も全く分からない。
ただ、ただ、訳も無く動かされて指示を待つ。


これが、やたらと辛い。


後どれくらい撮影するのか?
どのタイミングでトイレにいけるのか?
つながりをどこまで記憶したらいいのか?
指示を待って、聞いて動くだけという
一見簡単なことのように思えて
非常にこれが疲れるのがわかった。

つまり、ちょっとした情報を流すだけで
エキストラの疲れはかなりの部分軽減する。
その重要さがよーくわかった。

僕はなるべく現場で、
その情報を流すように心がけているつもりだが
今回のことで、しつこいくらいに情報は流さないと
エキストラは急激に消耗していく。
また、今日の現場は箱物で
現場移動もなく、飽きもすぐにくる。

今後の仕事に役に立つ勉強をした気分だ。

なんでも、一度やってみるのが近道だと言うが
本当にその通りだ。
貴重な経験をさせてもらった。
この場を借りてありがとう、カッツ氏。






さて、その後、つながりが無いのを確認して
現場から離脱。
モモエと食事に出かける。
お互い、自宅が割りと近所なので
自宅近くの焼肉屋は入る。
ホルモンが旨いこの店は
俺もこの地に越してきてから
ちょくちょく行く店なのだ。
百瀬はホルモンが大好きだというので
文句とか言われたらやだなと考えもしたが
文句を言ったら殴ると心に決め入店。

もちろん、いらっしゃいませと言われる。
間違っても焼肉屋の店員は
おかえりなさいとは言わない。
当たり前だが。



百瀬とは年末に会って以来で
互いの仕事の話しやなにやらを
肉をつつきながら話す。


なんだか、急激にストレス発散した気がする。
最近は仕事も無く、自宅にいて
誰とも話す時間がなかったりしたので
慌てるようにベラベラ話す。

疲れるが、たまに長い時間喋り倒すのもいいもんだ。













昼過ぎ。
ある決断。

かなり考えたが
結論として『映画の仕事』を引き受けることにした。

待つことは俺の症に合わない。
攻めるという抽象的な言葉を
具体化するのなら、
それは多分引き受けることだろうと
結論したのだ。



後悔先に立たず。

いや、後悔しないのだから
先にも後にも立たないのだ。
前だけを見て進む。
来た仕事を請ける。

それが俺のやり方だと思う。

ゴールがあるのなら
進まなければたどり着かない。



前へ ススメ。

じゃ!