新・カチンコ日記2

根無し草男の映像日記

肉の香り・・・

日本の自転車泥棒 JANの撮影期間は
大きく3つに分かれている。
僕が参加していない2005年末の大雪の第1部。

そして、天候に恵まれたようで
結果として天候によって『残』を作ってしまった第2部。

その第2部撮影から約1ヶ月・・・
最後の戦いをすべく第3部撮影がスタートした。

2月14日 6:00 渋谷
多くのロケバスが並ぶ渋谷のある場所。
まだ、暗い街を歩きロケバスに向かう。
バスを間違えるなんてことはない。
だって、『いつもの』バスだから・・・

我々は極力前回の第2部撮影スタッフを招集した。
それは車両部に関しても同じことで
最後のUPを同じメンバーで迎えたいという意思によるものだ。

しかし、
第1部・第2部とサード助監督を務めた岩崎が離脱
また、スクリプターの不在など
現場にとっては、かなりの痛手を負った状態でもあった。
今日から投入のM木と見習いで呼んだ浦Tには
いきなりエンジン全開になってもらわないとならない
辛い戦いを強いることになるだろう。

ロケバスに乗り神奈川の山奥へ向かう。

こんな日の出を何度今回の撮影で迎えただろうか?
僕らを希望と絶望へ導く太陽はゆっくりと昇りはじめている。





簡単に『残』と言っても残された分量は
そうそう簡単に撮影できる内容ではない。
のっけからこの映画の象徴とも言える
カメラカーを使った撮影からスタートだ!

「なにやってんだよ!全部ブロックだよ!」

「はい、すいません!」

「いいか、アメリカ車線走ってんだ!
               わかってんのかよ!」

「はい、わかってます!すいません!」

すでに、何十回、いや、何百回と
カメラカー撮影をやっているチームだが
怒涛の日々から間があいたためか
少しエンジンのかかりが遅い。
新規スタッフも多いので
このチームのペースを掴むまでは
まだ、少し時間がかかりそうな気配・・・
時計を見る。

30分ほどの『押し』だ。
香盤上、30分から1時間はなんとかなるだろうと
踏んでいたのがしょっぱなからだと
ちょっと痛い。
少しづつ借金を返済しながら・・・

うう、胃が痛い・・・

ふと、他の仕事をやってた方が楽だったと
良からぬ想像が頭をめぐる。
いかん、いかん、撮影こそ我が命。
今を楽しもうじゃないか。


そんな撮影中、現場を一群が通りすぎる。

この後、撮影する別名BBQチームだ。
監督のご友人の焼肉屋さんと
あるCMプロダクションさんたちの混成チーム。

「先に行って準備してまーす!」

「お願いします!」

その時は、全く想像していなかったが
次の現場ははっきり言って
『酷』なものであったのだ・・・

人間、おおよその方々は12時とか13時には腹が減る。
特に朝早くから起きて仕事をしていれば
尚更に昼は腹が減るもんだ。

僕らの目の前では焼肉が焼かれている。
とっても上質でいい匂いの肉。
上等な炭で、しかも焼肉のプロが焼いてくれている。

『うまそうで無い訳があるもんか!』

『食いたくない訳があるものか!』

が、しかし、その肉を食べる時間的余裕はない。
腹が減っているのに、目の前の肉は食べられない。
まずは撮影を、そして、撤収・移動・・・
片付けられる肉、肉、肉、、、、

蛇の生殺しって言葉あるよね。

それだよ、それ、まさにそれ。

グーグーとお腹が鳴っているのにも関わらず
肉を食う人間を撮影して
その肉を食べずに・・・昼食を食べる時間もなく、
撤収・移動する。

肉を焼いた残り香が辺りを覆っている。

食いたいよぉぉぉぉぉぉ!


「はい!撤収移動!ここから山の裏に移動します!」

「移動時間は約1時間30分!」

「移動飯でーす!」

と、バスの中で弁当が配られた。
『移動飯』と言うのは、その名の通り
移動中に移動しながら食べる飯のことだ。
移動時間をそのまま昼食の時間に割り当てるという
強引というか仕方がないというか・・・
あまり広いとはいえないバスの中で食べる弁当は

まさに格別というか、最低というか、酔っちゃうというか

食べにくい!

でも、ほら、僕は想像力があるから
目をつむり、思い出すわけよ
あの肉をさ、うまそうな焼肉の匂いをね。
で、飯をかき込むの、味は全く違うけどね。

ああ、おいしいなぁ、焼肉は・・・
って、言ったらより一層寂しくなるから

言わずに黙って食べた。
そして、寝た。
移動中の睡眠は次の撮影への活力だもん。




「わーっ! し、死ぬ!」

俺は思わず、叫んでしまった。
撮影中に声を出すなんことなんて
絶対に無いと思っていたが
自分の身の危険を察知したのか
なんのセーブもきかず声が出た。

曲がりくねった山道を
カメラカーで急速に下る。
哲太さんを追いかけて・・・
通常の道でなら、なんの問題も無いというか
振り落とされることなんかもないのだが
ここの山道は急激なRの連続。
それも、相当なスピードで下るもんだから
カメラカーの荷台に乗った俺は
右へ左へ振り回される、される、される。
荷台には鉄パイプが設置されていて
掴む場所はあるんだが
その掴んだ手を振り払うかのように
右へギューン!左へキュイーン!
前へボーン!後ろへドドーン!
だよ。
少しでも気を抜いたら最後
確実に荷台から落ちる。

落ちて笑い者程度なら
それもありだろうけども
このスピードでは待っているのは
死に近い場所。

駅近30秒!ってくらいの距離だ。
カメラカーの荷台は
必死の形相でしがみ付くスタッフが

『ひぃ!ひぃ!』と叫ぶ。

やっとのことで止まると
ニッコニッコの監督が出てきた。
※監督はカメラカーの助手席に乗っているので
 比較的というか
絶対的に安全。


「いやー、ははははははっ!素晴らしい!最高!」

「こっちは死ぬとこでしたよぉ!」

「え?本当?あ、そう、はははははは」

「OKですか?もう一回ですか?」

「うん、もう一回サイズを変えてやろう!」

「え?は、は、は、はいっ!」

「もう一回やるよぉ!スタンバイしてぇ!」

もうヤケクソである。
僕は両腕をしっかりとカメラカーに巻きつけた。

「ほんばーーん!よーい!スターーッ!」

ガクンと身体が持っていかれ
勢いよくカメラカーがスタートした。


今日撮影したシーン
113 80 81 81c 84