新・カチンコ日記2

根無し草男の映像日記

撮影納め

12月27日
天候に恵まれて本日、
本年撮影納めとなる仕事をする。
2004年を締めくくるに相応しいほどの
大人数で大掛かりな撮影をした。

今までで初めてみた特殊機材と
今までは初めてのエキストラ人数。

あまり細かく言うとなんのCMかわかってしまうので
ここでは一切触れません(守秘義務

 
 
AM7:00
現場集合。
さすがにこの仕事で2回も遅刻をやらかしているので
集合時間の15分前には現場到着する。
演出部の茂木が現場入口で
大勢のエキストラをさばいている。
  
  

  
    

前日・・・

「茂木!俺が到着した時には
エキストラはもう現場にいるんだよな?」

「え?あ、当たり前じゃないっすか!
何時に来ます?」

「7時かな」

「大丈夫っす!」

   
現場に到着するなり茂木がすっとんできた。

「早いじゃないっすか!」

「ああ、早いよ。エキストラは?」

「50人くらいはすでに現場です」

「ほーぅ」

いいじゃないか茂木!
素晴らしいぞ。

「点呼取り次第どんどん入れますから!」

「おう!早くな」

「うす」

 
 
猛烈に寒い朝だったが
エキストラは元気に集合していた。
最終的には350人ほどの人数になる予定。
僕は珍しくトラメガを借りて
現場の指揮に当たることにした。
しかも、今回はある程度
危険を伴う撮影でもある。
エキストラに安全の確認を徹底させないと
やばいことになるから
確実に声が届くトラメガが絶対に必要なのだ。

そういうことを含め
今日の僕は気合が入っている。

AM8:00
グラフィック撮影開始。
ここではまだ危険度は無い。
が、この撮影で今日のエキストラの”ノリ”や
”雰囲気”を掴まないとならない。
どのくらい言ったらちゃんとできるのか?
僕をどんな存在として意識するのか?

僕の言うことが
絶対であると思わせないとならない。
僕の言うとおりにしていれば
撮影は終わると思ってもらわないとならないのだ。
それは同時に
”信用”されないとならないと同義語でもある。

AM9:30
CM本編撮影開始。
ある撮影機材が縦横無尽に動く中
エキストラ350人に注意事項を伝えていく。

撮影機材にむやみに近づかないこと!
撮影機材にトラブルがあったら逃げること!
僕の笛で動きだし、
どんな状況であっても次の笛が鳴ったら止まること!
ある一定の年齢層のエキストラなので
少し経つと忘れてしまう・・・

僕は何度も何度も
同じことを繰り返し怒鳴り散らす。
  
  
  
  
「僕の言うことを聞かないと 
死にます!」

「え?」

「僕の言うとおりにしないと 
写りません!」

「え?」

「僕の指示通りでなければ 
何度でも撮りなおします!」

「えー!」
  
   
  
エキストラは頭に疑問符を浮かべた様子で
僕の質問を投げかけてくる。
が、一人の疑問に答えると、
それは350人全ての疑問に答えないとならないという
大変なことにもなりかねないことなんだ。
  
  
  

「質問には答えません!
質問は聞きません!」

「え?!」

「僕の言うことが全てです!
はい!配置についてー!」

「は、はーい」

  
  
冷たい奴だとお思いでしょう。
やな奴だと感じるでしょう。
でも、それは大した問題ではありません。
必要なのは求められた動きを
求められた通りにこなすことだけなんです。
芝居に対しての疑問にならいくらでも答えますが
動きや演出に関しての質問には
答えるつもりは一切ないのです。
危険や動きに関しては
全て僕に一任してもらわないと駄目なんです。
 
僕が演出やコンテを理解し
監督の意向を聞き
僕が一番いいと思う方法でやるんです。
 
それ以外に短時間で
撮影を終える方法はありません。
 
すごい自信だとお思いでしょう。
自信なんていくらでもありますし
全くもって自信はないとも言えます。
常に撮影は同じではなくて
いつも違います。
同じ方法論が通用することなんて
有りえないのです。

でも、僕には今まで9年間の経験があります。
その裏打ちされた自信は揺るぎありません。
僕にならできるのです。
そう思ってます。
 
 
 
「僕の言うことを守ってくれさえいれば、
確実に撮影は進み、終わります」

「撮影を少しでも早く終わりにしたいなら、
言うことを聞いてください!」

「はーい」

 
 
僕はグラフィック撮影を終えた段階で
エキストラに植え付けた。
”こいつが指示を出す人”で
”こいつが芝居の良し悪しを決める”のだと。
厳密には僕が決めていませんが
僕の口から答えは出てくるということです。

 
AM11:50
昼食が近い時間になっても
全く撮影が終わる気配がなかった。
うまく動けば動くほど、
もう少し良くしたいという 欲 がでる。
これは演出家なら当たり前の話だ。
僕もそこに異論を挟むつもりはないし、
僕も一応演出家でもあるから
その気持ちはよーくわかる。

でも、エキストラには
それをわかってくれとは言えない。
OKなのになんでもう一回なのか?
そういう疑問を持たせてしまうからだ。
今回、疑問には答えないと決めたのだ
逆に疑問を持たせるようなことも
避けないとならないんだ。

 
 
「お腹すいたー!」
「もうやりたくなーい!」
「眠~い!」

  
 
すでに飲まず喰わずの状態で
走り回っているので
エキストラはもうヘロヘロ
休ませて、飲み物でも飲ませてやりたい。
きっちりトイレ休憩もいれてあげたい。
でも、日の傾きが深く、
日照時間も短い冬なんだ今日は。
一度トイレ休憩を入れることで
失われる30分から40分は
あまりにも大きな時間過ぎるのだ。

だから、ごめん。
トイレ休憩は作らなかった。
どうしても我慢できない人だけ
自己申告してきてください。
いけるタイミングかどうか
判断してGOを出します。
 
 
 
 
  
「はい、もう一回やるよー!
配置について~!」

「えー!もうやだぁ~」

「文句を聞くつもりはありません。
言うことを聞かないと
夜になっても朝になっても終わりませんから」

「・・・」

劇的に素直になるエキストラ。
切れかけた緊張感を
再度張り詰めさせることに成功した。
 
 
  
PM1:30
すでにエキストラは暴徒と化していた。
一触即発の感じだ。

最後の1回と言ってから
かれこれ10回はやっている。

エキストラは何がどう問題なのか
相当知りたがってきている。
どうして、どこが駄目なのか・・・

 
 
  
僕は小出しに情報を伝える。
今のは風が強く吹いて
撮影機材を揺れたからだとか
顔が下がっていた奴がいたとか
言葉が聞こえにくいからとかね。
思いつく限りの理由を並べ立てた。
こんなことで少しでも納得できるなら・・・

 
 
 
「はい、もう一回やりまーす!」

「ええー!」

「はい、やるよー、並んでぇ~」

「やだー!」

「じゃぁ、帰れ」

「え?」

「嫌なら帰れ。これは遊びじゃなくて
仕事なんだからね、わかるかな」

「・・・」

「本番!!」

PM2:30
暴徒が暴れだす前になんとか終えることができた。
昼食も食べず、飲み物も飲まず、
本当によく耐えてくれました。
おかげで素晴らしい撮影が
できたのではないでしょうか・・・

ありがとう!みんな!