新・カチンコ日記2

根無し草男の映像日記

ノスタル人

5月25日
ロケハン。
午前中に済ませてしまおうと
自宅を出発した。
目指す場所は駅から20分以上はかかるであろう。
改札を出てすぐタクシーを拾おうとしたが
駅は住宅街のど真ん中であり
タクシーは走ってない。
しかも、目的地から逆に一方通行。

雨も小雨になってきたので
歩くことにした。
10分、15分、20分…
25分を歩いたとこで
かなり弱気になってきた。

もしかすると間違ってやしないだろうか?
逆方向に歩いてやしないだろうか?
そんなはずはない、と言い聞かせて歩く。
30分、35分。
じっとりと身体も汗ばんできて
俺の不安も最高潮の状態になっている。

誰かに聞くか?

しかし、誰も歩いてない。
タバコ屋のおばさんとか?
いや、まだ早い!
何が根拠で早いとか遅いとか
があるのか分からないが
とりあえず、コンビニに入った。
地図を捜し、該当箇所を出す。

…間違ってなかった。

目指す目的地はすぐそこだ。

さて、目的地は目的に合う場所だったか?

撮った写真は3枚。

そんな訳でバスに乗り駅に向かう。
空は雨から曇りに変わっていた。

行ってみるか。

すでに親戚も無く家も無く、
なんのゆかりも無い場所。
生まれてから15才までいた場所。

横浜市南区中村町…。

今いる場所から徒歩で15分くらいで着く。
時計を見るとちょうど12時で
ロケハン写真をメールで送る手筈だが
それは夕方の約束である。
地図はいらない。
迷うこともない。
記憶の地図が僕にはある。

そこは、懐かしいというより
新しかった。

道すがらを写真を撮りながら歩いた。
抜け落ちていた記憶の地図に
新しい地図が書き足されていく、
古かった地図は最新版に更新されていく。

駅から歩くと
記憶の航路を逆に辿ることになるんだが
(つまり、通常は家から駅前に向かう航路なので)
やはり駅前の変化は凄まじい。

とある商店街の入口で
僕の記憶の地図と全く、
いや、ほぼ同じ光景が
カチリと記憶と現実が
スライドするように重なった。

 

本当はかなり違うのかもしれないが
あまりにも同じで
”懐かしい”ではなく
”驚いた”

まあ、さすがに商店街の中は所々違っている。
こうして、違う部分を見つけても
意味は無いんだが…
僕はキョロキョロしながら
商店街を歩いた。

一軒の喫茶店を通り過ぎた。
同時に中からおばあちゃんが出て来た。
その割烹着の後ろ姿にある光景を思い出した。

一時期、ほんの一時期だが
両親がパチンコにはまっていた。
当時、ガキだった俺はその喫茶店で
ソフトクリームとトコロテンを食べながら待っていた。
そんとき家に自家用車でもあったら
確実にやばかったかもしれない…

そんな”待っていた”記憶。
その記憶の隅っこに
割烹着のおばちゃんがいる。
いや、すでにおばあちゃんになっている。

踵を返して喫茶店に入った。

当時、頼みもしなかった
ホットコーヒーを注文する。
サイフォンで入れてた。

懐かしく、新しい。

客は僕一人だった。
そのせいか時間が止まったようになった。
待っていたあの時と同じ場所に座り
商店街の喧騒をながめた。
パチンコ屋から出てくる母の姿が
ホログラムのように見えた。




商店街を出ると
当時から古めかしかった和菓子屋がある。
 
見事に変わってない。
変わっていないばかりか
当時からの空気まで
そこにあり続けていたかのようだ。

大好きだった味噌餡の柏餅。

そこで初めて一人で柏餅を買った。
たった一個なのに丁寧に
包んでくれようとしてくれた。

「そのままでいいですよ」

だってすぐ食べたかったから…
だけど、記憶していた味とは
似ても似つかなかった。

こんなもんかなぁ。
とかいいながら、
何故だかニヤニヤして街を歩いた。
ノスタルジーごっこが
なんだか楽しくなってきたのだ。

この和菓子屋を越えれば
俺が住んだ街はすぐそこだ。

河川上に沿うようにして
高速道路が出来ていて
景色がまるで違う。
 
別の街のようだ。

デジカメのシャッターを切る。
誰が見てもなんの変哲もない
ただの街、住居。

想像では何万円も使ったと思っている
駄菓子屋さんも閉店していた…
  

でも、僕にはそこを走った自分や友達が見える。
もう、僕が生まれ育ったアパートは無かった。
代わりに他の人の住居が建っていた。
  

ここに階段があって、
カンカンカンと登ると
すぐ右側にドアがあって
世界がそこにあった。
四畳半の大きな世界があった。
でも、今は無い。

それからすでに引越してしまったが
祖父母の家があった場所に行ってみる。
細い路地を抜けて行く。
 

かろうじて過去に住居があったことを
想像できるスペースがあった。
駐車場となっているのか
綺麗にアスファルトが敷かれている。
けど、その周りに敷き詰められた
石垣には見覚えがある。
  

確かにココに祖父母の家があった。
この辺りに作業場があって、
二階にじいちゃんがいて
一階にはポンタがいた。
中央にはウレタンが山のようにあって
昇ると怒られた。
こっちにも作業場があって
ミシンとかがあったっけ
ここでじいちゃんは
俺のせいで指を切り落とした。
俺もハサミで中指の真ん中から半分を
切り裂いたことがある。

溢れるように記憶が蘇る。
それは大人になった視点が加えられ、
おそらく、かなりドラマチックになっている。
が、あんまり人の敷地でウロウロしてると
不審者なので次は小学校に向かう。
 

思っていたより小さいかも…


日本刀を持ったオッサンに追い掛けられた公園。
  
公園の周りには沢山の木々が
生い茂っていたはずなんだが…
記憶違いか、仕様が変更されたのか。
今ではよくわからない。
しかし、何故追いかけられたのか?
多分、絶対に思い出せないのだろう。


僕が自転車脱出ゲームをした公園。
  
公園の中央に大木があったんだけど、
無くなっていた。
その木に俺は衝突を繰り返していたんだけども。
また、今は無くなっているけど、
この公園の入り口にあった縁石の近くで
俺は転んで左まゆげ上を強打。
何針か縫う大怪我をした。
今でもそこの傷からは毛が生えてこない。

伝説のカンケリをした路地。
(どんな伝説かはまた今度)
 


死ぬほど上り下りした、させられた坂道。
  
何故ヤギなのかは全く知らない。
部活で一番嫌だったのが、
このやぎざかの上り下りだった。
今では、下りるだけでもかなり大変。

すっかり仕事にかけた時間より
多くを使っている。

そろそろ帰ろう。
あそこによってから…

知らなかったがTVや雑誌で紹介されたらしい
ヤキソバとおでんの店。
 


中学生の頃には何度となく食った
ジャガ芋入りヤキソバ。
 

なかなか、焼きそばにジャガイモっていうのを
信じてもらえなかったこともあるんだけど、
こうして、ちゃんとメニューにあるのよ。

あんなに旨かったと思ったんだけど…
記憶の勝ちなのはしかたないことだ。
しかし、この店が開店して55年も経つとは
思いもよらなかった。
俺が通っていた時にはすでに
30年近い歴史があったのか…
しかし、ヤキソバを焼くおばちゃんには
あからさまな変化が無い。

いや、あるんだけど、
あるはずなんだけど
記憶の中のおばちゃんと
今のおばちゃんに大差が無いんだよね。
ある意味すげー。

メニューの値段もすげー。
とても21世紀だとは思えない。
 

通常の焼きそば(トッピング1品)で
大が300円 中が250円 小が200円だ。
肉卵ポテトの三色でも
大で400円 中が350円 小が300円。

生き続ける昭和って感じ。

かなり歩いて疲れたんだけど
なぜだか楽になった。
気持ちの問題なんだろうけど
たまにはノスタルジーが必要なのかもしれないね。

じゃ!