新・カチンコ日記2

根無し草男の映像日記

完成

5月10日
フルドラマVPのMA。
汐留にあるスタジオへ行く。

色々なことがあって
本編集の修正作業からスタートする。
徐々に尺が伸びる。
これで、MAにやってくる
選曲さんが困るだろう。
しかし、困ると言われても困る。
俺の隣には
完成を楽しみにしている
クライアントさんがいるからだ。
そして、楽しみにしていると同時に、
修正箇所の確認にも訪れているのだ。

が、まあ、
かなり良いクライアントなので
気負いは無いし自由といえば自由だ。
クライアントさんも
初めて入る編集スタジオに
興味津々であり、
様々なことができる編集機に
驚きを隠しきれていない。


「なんでも出来るんですか?」

「なんでもの度合いにもよりますが…」

「ああ、ですよね。」

「ええ、でも、大方のことは出来ると思いますよ
 時間さえあれば、あ、あとお金も」

「ははははは!」


とか言いながらも
非常に時間が気になっていた。
そもそも修正作業なので
あまり編集時間を押さえていなかったこともあり
すでにスタジオには次の予約が入っていた。
簡単なテロップ差し替えの予定だったから
10時から12までの2時間しか
スタジオは押さえられていない。

その差し替えのテロップだが、
クライアントから修正原稿が来たのが
昨日の深夜。
あまりの分量に驚愕したが、
これはいわばオーダー。
ここまで、こちら側のわがままというか
やりたい放題やらせてもらったお礼というか
一言一句欠かすことなく
入れ込むことを決意した。

多分、説得すれば
短い文章になるだろうけども、
クライアントさんも昨日、
深夜までかかってひねり出した文章だ。
チラリと見て、ほいほいと直すなんて
今の俺には出来ないこと。
あんまりにもひどい文章なら考えもするが、
修飾語が少し多いだけで、
減らせることは減らせるが、
それが大きな意味を生み出さないと判断した。

だから、そのまんま差し替えることに。

いや、そもそも、
この修正テロップは
クライアントさん側が、

「ここの文章は我々が
 考えて出さなくてはいけない部分。
 だから、遅くなるかもしれませんが、
 部内で話しあって部の答えを出します。
 よろしくお願いします。」

そうだ、このビデオは
あくまでも会社内のビデオであり
一つの部署が担当となって制作したもの。
会社として、部署としての
メッセージは俺が書くわけにはいかない。


「すいません、多すぎましたかね?」

「いえ、スターウォーズみたくしますので、
 大丈夫ですよ。多少時間は取りますが」

「ありがとうございます」


さて、全体で30秒ほど尺が伸びた状態で
MAに突入した。
事前に尺が変わるよと
予告しておいたこともあり
音の貼り付け作業も
ポンポンとはいかないが、
かなり早いペースで進む。



今回のビデオのテーマは
雨だ。

雨音が耳に残るようにしたい。
また、あの雑音のような雨音が
思いかす度に嫌な印象を持っていて欲しい。
そう考えて作ってある。

ちなみに前回は
踏み切りの音を強烈に印象づけたのだ。



MAをやるごとに感じるけど
やっぱり音ってかなり重要なもの。
映像以上に雄弁にテーマを語ってくれる。
映像には無いのに、
あたかも有るかのようにすることもできるし、
有るものが無いかのようにもできる。

そして、この作業を見ていると
少しづつ作品が完成していく様子を
逐一確認することができる。



「さっき、編集室で見たものと
 まるで印象が違うんですね!驚きました!」



と、クライアントさんが
目を白黒させて驚いていた。



「ええ、音楽をつけることで
 更に効果的に怖いビデオになったと思いますよ」

「少し怖すぎると議論になりそうです…」



え?やりすぎた?
でも、だって、行くとこまで行っちゃいましょうって…

言ってましたよね?



「……、ですよね。
 うん、これで良いんですよね?」

「って、僕に振られても困りますけど…
 かなり強い印象を残す
 ビデオにはなっていると思いますよ」

「はい、ありがとうございます」

「いえ、こちらこそ、やりたい放題やらせてもらって…」





うむ。どうやら、クライアントさんも
かなり満足してくれた様子で嬉しい。
とことん、追い詰める内容というか、
エンディングに全く救いのない
突き放した物語が完成した。
これを見た社員さんたちは
必ずや暗い、重たい気持ちになるはずだ。

そして、それが狙いである。

そんな狙いのVPなんてのも
なかなか作れないので、
本当に楽しかったです。

仕事を頂いて
ありがとうございましたっていう気持ちもあるけど、
もっと、感じているのは
この内容の仕事に俺を選んでいただいて
本当にありがとうございましたってこと。



前回に引き続き
良い評判になるといいな。



とか言いながらも
スタジオで営業も始める俺。
勝手に次回の構想を話してみる。

するとどうだ、


「実は…別の部署なんですが…」


「マジですか!是非、よろしくお願いしますよ」


「それはもう、喜んでなんですけど」


「けど?」


「まだ何も決まってない状態らしくて」


「なるほど、なら、決めましょう。
 打ち合わせに呼んでください。
 外部企画チームとして参加させてください!」


「え?いいんですか?」


「もちろんです!」






言ってみるもんだ。
俺はフリーランスだから
直接、嬉しいのは制作会社なんだけど、
すでに、この仕事は

俺ありきで進むのが確定しそうだ。

つまり、俺無くして仕事無し。
こんなに嬉しいことは無い。



風が追い風に変わりつつあるのだろうか?



追い風と分かったら…






すぐに次の手を打とう。
そうさ、映画企画の次の手を!





世界中でたった数人しか知らない映画。
まだ、10数枚に書かれた文字にしか過ぎない映画。
撮影されることすら不明な映画。
つまり公開されることすら決まっていない映画。

映画かどうかも分からない映画。

どうか、全ての”ない”が消えてなくなりますように。





さて、明日は
番組企画作成に取り掛かります!



じゃ!