新・カチンコ日記2

根無し草男の映像日記

夜の雲。昼の月。

3月10日
タクシーの窓から見える空は
うっすらと明るくて、
ゆっくりと動く雲がはっきりと見える。

やたらとかっ飛ばすタクシーからでも
ゆったりと動く雲はよく分かり、
空が明るいのは朝が近いからではなくて
街が明るいからなのだろうかと
iPhoneから流れるマビーン・ゲイの曲を聴きながら
ボーッと考えた。

普段なら、疲れ果てて
ほぼ垂直の後部座席に舌打ちしながら
目をつむって明日からのことでも考えるんだけど
今は、今日の試写のことを振り返っていた。



午前中に会社に行って
白素材の吐き出し作業をした。
昨日、吐き出したはずなんだが
途中でテープエンドになったらしくて。
でも、いくら考えても60分も無い素材なのに
途中で終るなんて考えられないと思い、
出社してすぐにテープを確認した。
すると、そのテープは60分と書いてあるにも関わらず
45分ほどしか存在せず、
俺のミスでもPCの不調でもなんでもない
物理的な欠陥品であったことが判明した。

で、仕方が無いので再度吐き出し作業。
時間が余ったので次回に控えている
英語版のオフライン編集も進めておく。

夕方。
クライアント先での試写。
試写と言っても、明日には本編集なので、
大きな修正は出来ないことが
初めから確定している試写である。
納期の事情から仕方の無いことではあるが、
その分、一発で仕留めるだけの
クオリティーが求められた。

ちょうど、昨日、
会社でオフラインをしている最中に
珍しくPが顔を出してくれたので、
繋ぎ終わったばかりの
オフラインを見てもらっていた。
一発OKだった。

だから、つまり、
これからの試写に対しては
それほど大きな心配はしていなかったのだ。
奥さんにも20時くらいには帰るよ
なんて言っておいたくらいなんだから。


が、すでに終電の無い時間に
タクシーで帰宅しているところから
その試写で何があったのかは想像がつくだろう。

本来、修正は出来ませんと
言い張ることの出来る部分への修正依頼。
その分、事前に確認を繰り返し、
指定されたこと以外のことを
極力やらずに、クライアントOKのみで
進めていたはずなのに…

いつもならはらわた煮えくり返るところ。

でも、全くそんな気は起きなかった。
それも、連続して3本のビデオを
一緒に作ったからなのか、
いつも以上にクライアントと
意思疎通が出来ていたからか…
いくつかの修正は
ある担当者さんの指定だった部分だったんだが
別の上司から指摘があり、
修正出来ないのに、修正して欲しい…
という板ばさみ的な状況があった。

そんな困った状況を救えるのは、
我々しかない。
出来ないものを出来ると言うのは
これから先のことも考えると
非常に危険な発言ではあるが、
今までの関係性やこれからの発展性を考えれば、
いや、すでに発注先と受注先であるはずなのに
共犯関係というか同じ会社の別部署的な感覚。
感覚だけだけども。

それは、つまり
今日は深夜まで作業をするということの確定。


「この際なんで、一つ直すのも二つ直すのも…なので、
 どこまで修正できるか確約できませんが、
 ベストな修正が何なのか確定させましょう!」




そう言ったら
恐る恐る、ポツリポツリと、
修正依頼が…

そこはやはり、このツールを実際に使用する側
ビデオでどこまで説明すれば良いのか、
分かりやすさのの限界を目指している。

それに応えるのは
こちらの仕事。




「結構、修正入りましたね」

会社に帰る電車の中で
APがポツリと。

「まあ、これも顧客満足の一環だね。
 あそこで出来ませんって、突っぱねることも可能だけど
 次回の仕事まで突っぱねることになり兼ねないもんな。
 次から次の仕事に繋ぐには、
 常にベストのクオリティが必要なんだよな~」

「ですね~」

とはいえ、これから会社で
下手をすれば朝まで…と思うと気が重い。
俺は編集マシンにかかりっきりだけど
APにはやることが無い。
先に帰りたいだろうけども、
それを言い出せるはずも無い。
もちろん、俺から”先に帰っていいよ”なんて
絶対に言わないしね。

一人で闘うなんて
嫌過ぎるもの…









そんなこんなで
深夜1時に作業終了。
思ったよりは早く終った。

プレビューしながら全体のチェックも済ませ
明日の本編集に備える。
テロップ原稿が残っているけど、
これは帰宅してからやろう。

もし、PCが動かなかったら
APのマシンを借りて
編集室で作業しよう。

そうしよう。




夜の雲が左へ左へと流れていく。
昼間と違ってうすら寒いけど、
こうして夜の空を見ていると
何故だかもうすぐ暖かくなるんだなぁと
思えて仕方が無い。




じゃ!