新・カチンコ日記2

根無し草男の映像日記

あの娘の笑顔

2月20日
早朝近くの3時過ぎ。
僕と奥さんは布団のシーツやら
ソファーのカバーやら
娘の洋服やらを洗濯していた…



深夜を過ぎても昼寝が長すぎたのか
全然寝ようとしなかった娘が、
やっと寝る気になったのかと思ったその矢先。
急に半身を起こし咳き込み始めた娘。


「ゲホゲホッ ゲロッ!」

「え! ゲロッ?」


ガバッと起きると
夕飯が布団の上に巻き散らかされていた…
スヤスヤと眠る息子を隣の布団に移動させ
汚れた布団やシーツを風呂場へ持っていく。
その間、汚れた服を着た娘を着替えさせて
居間のソファーに座らせる。
洗濯を手伝ってから居間に戻ってみると
娘はまたもゲロまみれだった。

洗濯の量が二倍に増えた。

少し吐いて楽になったのか
娘は水を飲みたがった。
通常、嘔吐があった場合は
3時間くらいは何も与えない方が良いと
何かで読んだことがあるが、
嘔吐の原因が、
多分食べすぎか何かだろうと
思っていたので、
少量なら良いだろうと
お茶を飲ます。

すると数分後に、また嘔吐した。
洗面器を用意していたので
洗濯の量は増えなかったが、
娘は水を飲む度に嘔吐した。

それでも飲みたがる娘を
なだめてなんとか寝かしつけるも
その後も度々吐く。


が、吐き疲れたのか
ぐったりしたのか
そのどちらかで、
娘は寝た。


とはいえ、
またいつ吐くのか分からないので
ドキドキしながら娘の横で寝た。


明朝すぐに医者に行こう。


8時30分。
なるべく待ち時間が無いようにと
診察時間より30分早く病院に行く。

奥さんと息子は幼稚園に行く。

医者に経過を話すと
幼児時期の嘔吐は心配だからと
総合病院を紹介される。
”今からすぐに行け”と。

で、近所だったがタクシーで総合病院へ。



総合病院てやつは
どうしてあんなにも患者が多いのか?
待てど暮らせど順番がこない。
30分が経ち、1時間が経ち、
1時間30分が過ぎ、2時間が過ぎ…
その間も娘は暴れるはぐったりするは…

2時間を10分ほど過ぎたころ
やっと娘の番が回ってきた。


「脱水の危険性がありますので、
 点滴をして検査をして様子をみましょう」




総合病院には
世にも恐ろしげな名前の部屋があった。
『 注 射 室 』

その病室は注射のためだけの部屋。
その部屋に入るということは
確実に注射をするということ。
室内では注射をしている患者ばかり、
注射が得意な看護士さんばかり、
注射しかしない、注射専門の部屋。

そこへ行けという。








注射室の扉から泣き叫ぶ娘の声が響く。
『お父さんは出ていてください!』と言われて
俺は扉の外にいた。
火が付いたように泣くという表現が
適当がどうか分からないけども
その泣き方は尋常ではなかった。

呼ばれて注射室に入ると
手の甲から点滴を入れられた娘が横たわっていた。

「もっと暴れるかと思ったんですけど、
 疲れていたようで、あまり暴れませんでしたよ」

って、二人がかりで押さえつけていたじゃねーか!
さっき、心配で少し扉を開けて見たからな。
まあ、ぐったりしてなかったら
それくらいしないと注射なんて出来ないだろうが。



娘はすっかりおとなしくなってベッドに横たわる。
蚊の鳴くような声で俺を呼ぶ

「パパ~、パパ~」

注射針の刺さっていない方の手を
差し伸べるように前に突き出して
なみだ目で俺を見つめている。
抱きしめてやるが、
手の甲に突き刺さった針は
抜いてやることはできない。

「パパ~、パパ~」

気分的には生死を彷徨っているようである。
心のどこかで生死に関わるほどでは無いと
わかっていたんだが、
あまりの娘の力無さに少しウルッときてしまう。

「ちょっと、脱水の具合が思ったよりも悪いです…
 念のための措置で入院された方が良いかと…」

「え?入院?今すぐ…ですよね?」




バタバタと看護士さんたちが
入院の準備を始めている。
同時に娘は腹部レントゲンを撮り…
少しの間にも俺には
入院関係の書類やら説明書が束でドン。
ベッド代金に一瞬ぎょっとしたが、
その躊躇は意味が無い。

何十枚もある書類。
いちいち、自分の名前や娘の名前。
母親の名前や生年月日。
覚えているはずなのに出てこない
自宅の電話番号…
思わず、息子の名前と自分の名前を間違えたり、
それを察してか、
やたら看護士さんたちが世話を焼いてくれる。
母親でなく父親が一緒だってことで
必要以上に助けてくれるのだろうか?
非常にありがたい。

が、娘はベッドに寝てから
急激に熱が上がった。
39度ほどまで上がり顔が真っ赤になっている。

何かあったらナースコールしてくださいと言われたので
なんの躊躇いも無く、すぐに赤いボタンを押した。
連打してやろうかと思ったが辞めた。
そんな余裕は、本当のところ無い。


熱は恐らく、身体に入ったウイルスに
反応しているのだろうとのこと。
ある程度熱を出したところで、
解熱剤を投与する。



幼稚園から息子と奥さんが駆けつけた。



お互いにまさか入院なんて
考えてもなかったから
俺なんてぞうりだし
小汚いジャンパー姿だ。
幼稚園の弁当のことなどもあるので
俺が付き添いで病院に泊まるつもりでもいたが、
やっぱり奥さんとバトンタッチする。

病室を出る際
娘にバイバーイと手を振ったが
娘はじっと俺の顔を見るだけだった。




息子とたった二人だけの夕食。


「なんか寂しいね」

「そうだね…」


ああ、そうだ、
明日の弁当の準備をしないとならない…
洗濯もやっておかないと
入院した娘や奥さんの分の着替えが…



布団では
パパに読んでもらう!と絵本を
一冊抱えた息子がスヤスヤと寝ている。



洗濯物を干しながら
そんな息子を見ている…



娘もスヤスヤと寝ているんだろうか…





追記
バタバタした数日だったので
すっかり記載するのを忘れていたが、
今日、この日20日に
長谷家の奇跡である
親戚の娘に待望の赤ちゃんが生まれた。
いや、すでに長谷家ではないが…
まあ、色々あったが
事件の多い数日であったのは
間違いのない事実である。

おめでとう!