新・カチンコ日記2

根無し草男の映像日記

お前も頑張れよ。

12月7日
すでに準備は万端だ。
昨夜にカメラの使い方や
三脚の具合など機材チェックと
試し撮りまで行った。

普段、仕事で僕自身がカメラを使わないので
前日の機材チェックは初めての経験である。

そう、今日は幼稚園で発表会がある。

息子の役は『くまさん』だ。


今日の日を迎えるまで
幾度と無く息子に劇の内容を聞いたが
幾度と無く聞かなければならないほど
その説明では全貌はつかめない。
劇の元となる
『ポカポカホテル』の絵本も買った。
毎晩のように息子に奥さんが
読んで聞かせた。
僕も何度か読んで聞かせた。

が、何度読んでも
この話のどこをどう劇に芝居にするのか
全く皆目検討も付かない。

しかも、絵本には『くまさん』は登場しない。
キャスト発表の紙を見ても
絵本に登場する『りすさん』の役はあるが、
肝心の『きたきつねさん』の役は無い。
その代わり、全く登場しないはずの
『くまさん』『かえるさん』『うさぎさん』
『はちさん』が登場する。

全くわからない。

いや、これが仕事であるならば
この何も分からないで
現場に向かうということは
絶対に有り得ない。
確実に撮影するために必要な
情報を得ていないと仕事にならないからだ。

が、これは仕事ではない。
当たり前だが。


舞台の会場時間は
9時20分からであった。


僕は、8時30分に
幼稚園に到着した。

駐輪場に自転車を置いていたら
ちょうど保育士さんたちの出勤とかち合った。

『○○くんのパパ、
   張り切ってますね』

とか思われてしまうだろうし、
子供や奥さんにも
そのように言われてしまうだろう。
いや、いや、
張り切っているのだ、俺は。

張り切って何が悪い!
悪くないか、別に…

会場に向かうと、
当たり前のように誰もいない。
僕が先頭だ。
これで、ひとまず、
今日のカメラポジションを確保したと言える。
が、いかんせん、内容が不明瞭であるため
狙いを定められない。

上手から狙うか?

下手から狙うか?

会場ホールの作りからして
上手からの入場に
間違い無いと思われるが、
息子がどの位置に立ち、
どの位置でセリフを言うのかは分からない。
ぶっつけ本番である。

そして、間違ってもミスは許されない。
許してくれない。
自分でも許せない。

和気藹々とする会場内であったが
一人、僕だけが仕事では
久しく味わっていない
緊張感に包まれていた。
確かに、考えようによっては、
明日も同じ発表会があるのだし
今日は練習のつもりでなんて言うこともできるが、
それは、相手が大人であればであって、
相手が子供であれば、
その論理は通用しない。

今日出来ても、
明日できないかもしれないし
今日の立ち位置が、
明日変更になっているかもしれないからだ。

また、使用するのは借り物のカメラだ。
扱いも完全に熟知しているとは言い難い。

長い話があった後…


幕が開く。




息子は?



どこだ?



上手か?下手か?








うっ!  いない!



出番は?  何番目だ?




しかし、劇の進行を見ていて
そのパターンが読めた!

いける!




出た!  息子だ!


あれほど嫌がっていた
熊の帽子を被っている!

うっ!眠そうじゃねーか…

ズームでヨレば一目瞭然だ。
あからさまに眠そうな表情。
その表情は、
ある意味
ふてぶてしくさえ見える。


え?あくび?


今、あくび した?


は?
息子だけ歌ってねぇじゃんよ!


手拍子は?
ほれ、皆やってるだろ?

やろーぜ!



って、こっちを見るな!



あ!今度はケツ?
ズボンに手を入れて…?

ケツをボリボリと
掻きむしっているよ!


有り得ん!


有り得ないよ!

なんだよ、そのたまに歌ったり、
たまに手拍子したりは!

その緊張感の無ささ加減は
ある意味素晴らしい…

アングルでヨリを撮っている時に限って
息子は棒立ちになる。
引くと歌ったり踊ったりしている。

ああ、嫌がらせか?
パパに良い画を
撮らせない気か?
そうなんだな?


ああ、まあ、鼻くそほじらなかっただけ
運動会の時よりはマシだと思おうじゃないか。
そうだよ、よくやったよ。
これで、帰ってダメだしをするのは間違いだ。
息子はプロじゃないんだからな。

褒めてやろう。
褒め殺してやろう。


「今日はとっても頑張ったね。
 でも、明日はもっと頑張ろうね。
 歌とか踊りとかね、やってみようね。

      わ ・ かっ ・ た ?

「うん、わかった。頑張るよ!」


その言葉、信用できん。


が、信用するよ。
きっと明日は大丈夫。
いや、出来なくても良いさ、
楽しそうにやってくれればな。

でもな、ケツだけは
ポリポリかかないでくれ。

頼むよ。




そう、言い残して
パパは忘年会に向かう。

忘年することなど
絶対にできない年なんだが…
まだ、終っていない2007を
早々に忘れる訳にはいかないのだ。





「パパ、お仕事行くの?
 遅い?じゃあ、お仕事、頑張ってね!




「…うん、わかった、
頑張るよ



お互い頑張ろうな。


じゃ!