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新・カチンコ日記2

根無し草男の映像日記

薄暮を待つ間に・・・

2月7日

■この日記は撮影終了後に
 香盤表を見ながら
 数ある出来事を
 思い出しながら書いたものです。
 若干の思い違いや誇張
 脚色が含まれています。

 ご了承ください。

映画「Watch with Me ~卒業写真~」撮影日記
『薄暮を待つ間に・・・』

2月7日
撮影には”待ち”が多い。
さっと書いてみると

太陽待ち、雲待ち、雨待ち、雪待ち、風待ち、
監督待ち、演出部待ち、撮影部待ち、
照明部待ち、録音部待ち、美術部待ち、
メイク待ち、着替え待ち、エキストラ待ち・・・

もう、ありとあらゆる事を待つ。

しかし、待っていれば絶対に行けるとは限らない。
待てど暮らせど”その時”が来ない場合もある。
例えば、天気だ。
もうすでに、何回も撮影日記で書いているが
天気だけは、誰にもコントロールはできない。
予想や予測はできても
それをコントロールすることはできない。
だから、いくら、晴れを望んでも晴れるとは限らない。
天気予報が晴れでも
現場が晴れているとは限らないのだ。

しかし、我々は”待つ”

撮影というその”時”を。



6:30集合出発。
今日の朝は早い。
日の出の時刻はまだ7時過ぎというのに。

これには香盤を作成した
僕なりの考えがあってのこと。

今日はこの映画の中で一番
危ない撮影をするからである。
その準備をできるだけするための
余分な、過剰な時間配分。


本日の撮影は車関係である。


映画の中で車が走るシーンというのを
よく見かけることがあるだろう。
びゅーっと車が走るのを撮影するのに
一体どれだけの人間と労力が消費されているか
主人公がこの車で走っていると
映像を見ただけで表現するために
他の車を排除しなければならないかもしれない。
猛スピードで走る様子なら
スピード感を出すために
他の車を仕込まないとならないかもしれない。
一般の方々に危険が及ばないために
通行を止めないとならないかもしれない。

それはもう、大変な人数が現場で動き回っている。

そして、それぞれがシーバーでつながり
完璧な安全状態を確保し
尚且つ、天気やコンディションを待ち
ベストなタイミングでshootするのだ。

これが、一筋縄でいくはずがない。

で、今日はそんな車関係の撮影だ。
それも、主演の羽田さんが車に乗り込んでの。
一遍の狂いもなく安全を確保しなければならない。
いや、他の方でもそうなんだが。


さて、かと言って羽田さんが
直接運転するのは大変危険である。
芝居をしながら、運転なんて有り得ない。


で、どうするか?


車を引っ張るのである。


簡単に言うと牽引する。
大型の車両で役者の乗った車を引っ張る。
大型車には撮影機材、照明機材、
我が演出部が乗り込み
更に、安全確保のために
役者の乗る車にも演出部が乗り
制作部が牽引車の前方と後方を
ブロック車と呼ぶ車両で固めている。

ロケハン時に
ここの道路の状況は確認してあるので
一般車がどんな経路で入ってくるかも
理解済みである。

ここまでやって、やっとスタンバイ完了。

車を牽引する準備を待ち、
カメラや照明のセッティングを待ち
車両配備を待ち・・・

だからこその、早朝出発。

香盤を見れば
誰も、この時間に文句を言うことはない。
むしろ、これだけで大丈夫?くらいなもんだ。




ちょうど、昨年頭に「日本の自転車泥棒」という映画で
カメラカー撮影をたっぷりと味わっていることもあり
細かい段取りや車両配備に関しては
明確にプラン立てすることができた。

やはり、モノ言うのは経験である。




現場に向かう道すがら
前方10メートルも見えない霧に包まれる。
辺り一面真っ白な霧。
このままでは現場に向かうだけでも
大変に危険な状態。

え?中止?もしくは待ち?

真っ白な霧の中
僕の頭は真っ黒な気持ちに包まれる。
同乗している監督も

「すごい霧だねー、こんな霧初めてみた」


とか言っている。
初めてだろうが、なんだろうが、
今日は撮影なんだ。
しかも、中止なんて有り得ない状況下での
デットエンドを背負った排水の陣。

「ええ、撮影しましょう!」

「・・・このままだと撮影できないよね」

「このままは無理ですけどね」

「・・・現場で待つか」

「待ちましょう。大丈夫ですから」

「・・・」


一体全体この状況下で
誰が大丈夫などと言ってくれるだろうか?
あたり一面真っ白なこの霧の中で。

きっと俺だけだ。

それが俺の役目でもある。

俺の根拠の無い自信は
すでに瀬木組の中で浸透しつつあるが
こんな場合にこその根拠のなさである。

最終的に撮影できなくとも
天気でなく、俺のせいにすればいいじゃないか。
俺の日頃の行いのせいとかに。

天気という、ある種
誰にもどうもこうもできない相手より
俺のせいにした方が
気が楽であろう。


でもね。

今日は大丈夫。
絶対に大丈夫な日なのだ。

それは

何故か?




夕方。
午前中にほぼ全ての撮影を終え
夕景時間を狙った撮影の準備に入る。

が、すぐにそのスタンバイは終わり。

ただ、ただ、夕方を待つことに。
夕方のシーンは夕方でないと撮影できない。
この撮影に基本的なことを
忘れると大変なことになるからね。

で、空いた時間に別な撮影をなんてことをすると
絶対に良く無いことがある。
こういう時の香盤だ。
ちゃんと組んでいるのだから
欲張るとダメよ。

まだ撮影は二日目。
欲張るとダメダメよ。




で、その夕方、薄暮待ちの間に
一本電話を入れる。


「もしもーし、○○くん?」

「パパだー!」

「うん。○○くんお誕生日おめでとー!」

「うーん。ありがとー!」



そう、今日は息子の誕生日だ。
それは、つまり、こういうことだ。
以前、瀬木監督と一緒に撮影した

「LOVE ASIA~花びらの舞う海へ~」

の完成の日であるということ。
全てが楽しくうまくいったあのドラマの。


そんな日に霧とか雨とか雲とかさ
出る訳がないじゃん。

今日は絶対に晴れると信じていたよ。

晴れ以外にありえない日なんだ。





薄暮を予定通り撮影し
夕日が耳納連山に沈むころ

撮影隊は夕方の太陽で日焼けして
ぐったりとしながら車に揺られていた。



息子よ誕生日おめでとう。



近くにいてやれなくてごめん。



今日撮影したシーン
S#87  33A  76