新・カチンコ日記2

根無し草男の映像日記

苦悩・苦闘

2005年11月1日

明らかに無理があった。

今日の分量と撮影時間は。

香盤上何々と言葉の上では

成立しているようには見えるが

しかしそれは全くの出鱈目で

希望的観測に過ぎない。

約8ページを6時間。

数字では滑り込みで終わりそうな感じだが、

撮影内容や現場移動を考えると

厳しい状況には変わりが無い。

状況優先で…時間が来たら切ってでも終了しよう。

と、自分に言い聞かせた。

そして香盤にもそう明記した。

22時(時間切り)終了と。

子きつねヘレンと愉快な仲間たち

The ShortMovie 撮影日記(4)

森三中』主演

『母のエピソード』

制作部H君の携帯電話は

素晴らしい機能が付いている。

『都合の悪い話し中に着信する』機能だ。

「H君、1日の件なんだけど」

「はい」

「どうする?深夜残業でも帰京して、

早朝出発するかい?」

「えーと…」

「いや、もし安宿でも見付けられてさ」

「(着信メロディー)あ、すいません」

「あ、うん」

「H君、打ち合わせの件なんだけどさ」

「はい」

「昨日の感じだと分量的にキツイと思うんだよ」

「ええ、(着信)あ!すいません」

「あ、ああ…」

「H君!」

「はい!あ!(着信)」

「Hく、(H君着信)」

「H君…」

「はい…」

「君の電話はどこで売ってるんだい?」

「はい?」

「俺も欲しいんだ、都合良く鳴る電話」

「…すい、あ、(着信)」

てな訳でH君の電話には

素晴らしい機能がついているんだが

とどのつまり結論を導き出せないままの

問題が山となっていた。

今日の『帰京か宿泊か問題』

先送りされていた懸案事項であった。

そして、バタバタと当日を迎え…

11:00

今日の主演は『森三中』さんである。

主演人数も多いせいか

撮影日数も多いせいか

台本の分量も約2倍だ。

いや、2倍で2日間なら計算が合うのだが

実質我々に与えられた時間は1.5倍しかない。

つまり余裕なんか全く無い…

今日はその0.5に当たる半日のスケジュール。

14時に東京を出るという皆さんを

昼過ぎから今か今かと現場で待ち構える。

通常なら約1時間30分で到着する見込み。

14時に出てなんの問題も無ければ15時30分には…

なんとしても陽のある内に撮影を開始したい。

だってファーストカットはデイシーンなんだもん。

日没は16:50くらいなので16時に開始できれば…

14:00

「H君!森三中さん出た?」

「今、確認中です!」

「出たら…」

「(着信)あ!すいません」

「……」

既にカメラのセッティングも終え、

演出部でのテストも終え、

後は3人を待つばかり。

「H君!」

「10分後に出ます!」

「うっ!」

危険な兆候だ。

デイシーンをナイターに

切り替える必要があるかもしれない。

その辺りは監督も含め

充分に打ち合わせをしてあるので

ナイターへの変更も問題はないだろう。

たかだか10分だ。

デーンと構えて行こうぜ!。

× × × × × ×

20時を過ぎた。

残るシーンはあと4つ。

分量的に言うと約4ページ。

少しつづだが撮影ペースもダウンしてきている。

ここが今日一番の悩みどこである。

続行して全て撮り切るか

切り上げて明日に備えるか

恐らく続行すれば12時前後には終わるだろうが

バラシを入れると

スタッフが帰れるのは2時か3時になるだろう。

明日の集合は7時30分だ。

かなり微妙な時間であることは言うまでもない。

切り上げるとどうか

22時に終わりある程度機材を残し帰るから

23時には帰られるだろう。

ただ明日夜また来なくてはならないので手間は手間だ。

そしてその分金もかかる。

金が絡んでくると僕一人で判断する訳にはいかない。

制作サイドと話さなければならない。

「長谷さんにお任せします」

困った。

任された。

どーするよ?

現場は着々と進む。

だが、僕は新たな判断材料を入れて

もうひと悩みすることにした。

それは森三中さんの状況と作品のクオリティだ。

そのどちらも『切り上げ』法が望ましいと思われた。

21時で判断しよう。

21時の段階で3ページを残すようなら切ろう。

僕はそう判断した。

だが逆に21時を過ぎても尚、

今撮影しているシーンが終わらないなら

トコトン行くしかない。

そんなペースなら明日に残しても

深夜残業になってしまうからだ。

しかし、僕はどちらを望んでいるのだろう…

22:00

『このシーンで本日終了します!

残分は明日撮影します!』

『本日終了!おつかっした!!』

僕の判断は間違ってない

もう一度言い聞かせハイエースに乗り込んだ……

海からの冷たい風が

すき間だらけの民宿に吹いていた。