新・カチンコ日記2

根無し草男の映像日記

主役は遅れてやってくる。

6月12日

乗りかけた船。

いや、すでに途中下船した船。

また、乗ろうとしている。

その着岸を前に、

荒波の中を走る船に。

どうやら半券があれば

また乗れるんだそうだ。

「来れたらでいいです。

 〇〇が頑張ってますから!」

〇〇とは今回手伝ってくれた

CMを専門とする助監督集団の一員の奴で

元々CM制作会社で制作部をしていたらしい。

細かく教える時間は無かったが、

少なくともコツの一端は掴ませたつもりだ。

「さっきもハッパをかけたとこです。

もっと自分で仕切れって。」

「そうですか…仕切れてないんですか?」

「いや、まあ、大丈夫だとは思います」

「伝えて下さい。俺は見ているぞ、と」

「はい、わかりました」

この段階ですでに俺は

奥にしまっておいたはずの

半券を探していた。

電話口のプロデューサーの口調は

出来たら、可能なら、ご都合が良ければと

至って丁寧なんだが、

暗に”暇なら来てよ”と語っている。

俺が頼まれて断るのは

仕事と仕事が被っている時だけだ。

そうさ、今日は被っていない。

気分が変わってしまった?

そう、確かに気分は

助監督から監督に変わっている。

戻せば良い。

俺はしがない渡り鳥。

決して根を下ろさない根無し草。

頼まれる”事”

それだけが生きる糧

ここで断るのは…

俺じゃねぇ。

「スタジオの番号は?」

「〇ステージです」

「そうですか…」

電話では行くとは言わなかった。

むしろ行かないそぶりで電話を切った。

主役は遅れて現れる。

突然、唐突に、一番良いとこで…

じゃ!

追記。

思ったより奴は出来る。

進めなければならない、

自分がやらなければならない、

そんな気概を感じさせてくれた。

なんだよ、やることないじゃん。

むしろ、俺が口を出した方が混乱するんじゃないの?

威勢良く上着を脱いで

やる気を見せたけど

肩透かしみたい。

あーあ、カッコ悪ぃ。

まあ、しかたねー

S川!頑張れ!

後は頼んだぞ、と

しれーっと現場を後にする。

明日は演出として

スタジオに行かねばならない。

直し本編集MAがあるのだ。

じゃ!