新・カチンコ日記2

根無し草男の映像日記

フルドラマVP 撮影二日目。

4月23日
「え?今日雨降ってるのに
 ○○ランドで花火やってるのかよ!」


とあるテーマパークの近くの
ハウススタジオ。

20時を過ぎた頃
花火の打ち上げの音が
鳴り響いた。
花火が終るまで
音声が必要なカットは撮影できない。

花火待ちか…


と同時に、
スタッフは少しにこやかになっていた。

「いや、雨が降っているのは、ここだけですよ」

僕らはすでにビショビショだった。
いや、正確には僕以外のスタッフはだ。
デカい給水タンクからくみ出された水は
四方に張り巡らされたホースから
ハウススタジオ前の道路を水浸しにしていた。

今日は雨降らし撮影。

わがままと言われても仕方がないが、
どうしても今回の作品には
雨を降らしたかった。

もっと言ってしまえば、
雨降らしをやりたいから書いた脚本でもある。
雨ありきで書き上げた。
プロデューサーからのGOを受けた時、
おくびにも出さなかったが、
飛び上がりたいほど嬉しかった。
さすがに爆破やガンエフェクト
VPには必要無いので今後も出来ないだろうが、
雨降らしは是非ともやってみたい
撮影表現の一つだったのだ。

夜に降る雨。

ただそれだけで
表現できる空気感がある。
暗く冷たい雨。
闇に溶けていく雨。



普段、天気に左右される撮影だが、
こうして雨を降らしたり止んだりさせていると
天気を手中に収めた、
コントロールしている気になる。
これほど気分の良いものはない。
スタッフは大変そうだが…

上がりを見て納得してもらうしかない。

いや、いや、
モニターに映ったこの映像を見る限りでは
確実に雨の効果がある。
自分が演出しているなんて
まるで思えないほどカッコいい。



良かった、雨降らしを台本に書いておいて。



クライアントさんも
普段見ることのできない
雨降らし撮影を楽しんでいる様子。
もちろん、まさかVPで雨降らしなんてと
役者もスタッフも楽しんでいる。

皆、作っているという行為を
改めて発見し、確認し、楽しんでいる。

グイグイと現場が
クオリティを上げたいという
欲求の渦に巻き込まれている。


こうなると、すでに僕の口出しは無用だ。


ほっておいても、
どんどん絵がよくなって行く。


その行動がMAXになる前に
更に高度なことを言ってみる。
出来たらいいなーと思っていたけど
大変そうだから言わなかった部類のことを。

「芝居の後半だけ背景に
 車のワイプが欲しいんだけど…」

「信号のタイミングを計って計算します!」

「「ほぼ良いんだけど、
 奥のダイヤモンドに雨を足して欲しい」

「ホース一本追加します!」

ああ、今なら、
頼めば何でもやってくれそうな勢いだ。

「お金を貸して欲しいんだけど」

と言ったら

「働いて稼いだらお貸しします!」

とか言いそうな感じだ。
いや、あくまでも感じだけ。




とはいえ、さすがに雨降らしには
予想していなかった時間がかかる。
撮影終了予定時刻がジリジリと迫る。
誰も、時間を気にしている様子はないし
時間に関して何かを言ってくる立場の人間もいない。
その立場であるプロデューサーは
自身の映画作品のために
東京を遠く離れているからだ。

だから、いくら時間をかけても良いかと言えば
そんなことは全くない。
かければかけただけ、
スタジオのレンタル料金がかかっていく。
1時間にウン万円が飛んで行く。

そんなことを考えていたら
演出なんて怖くてできないんだけど
ある程度考えて進行しないと
演出オファーがこなくなる。

綱渡りだ。


全てのカットを終え
時計を見た。
完全撤収時刻の15分オーバー。
バラシの時間を入れると
たぶん30分から45分オーバー
ってところだろう。


まずまずってところかな。





今日はファーストシーンとラストシーン
そして物語で最重要なシーンを撮影した。



それで45分オーバーなら
御の字ってところだと
多分誰も言ってくれないので
自分で書いておく。



さて、明日は様々な都合から
撮影は無い。
つまり撮休である。



が、ちょうどその日を狙って
打ち合わせが入っている。




次へ次へ、
どんどん仕事よ入ってこい!




じゃ!