新・カチンコ日記2

根無し草男の映像日記

フルドラマVP 撮影初日。

4月22日
想像した通りになんて
事は運ばないし、
それを具体化するために使う時間は
とてもじゃないが限りある時間の中では
途方も無さ過ぎる。
想像を具体的にすればするほど
現実とのギャップに悩み、
そのギャップを埋める作業に
終始してしまいがちになる。
そもそも、その想像が最良か否かという問題は
とうに忘れ去られてしまい、
想像の具現化にスタッフが振り回されこき使われ…


とはいえある程度の想像は必要で
また、ある程度の具現化するための努力は必要だ。
つまりさじ加減ということになる。

僕は細かく想像したプランなどを
具体的に話すことを避けてきた。
それらを具体的に話せば話すほど、
皆、それにすがり、それが唯一の答えのように
真っ直ぐにまい進してしまうからだ。
しかし、常に答えは一つじゃなくて
二つあったり、三つあったり、
それ以上あったりするものだ。

だから、必要最低限で準備に必要な部分だけを
かいつまんで話した。

「後は現場で芝居を作ってからで…
 見ないと細かくは分からないから」

と、ロケハンの度に、
打ち合わせの度に話してきた。
本当はかなりの部分を
想像してあるし、方法論や演出法も
考えてはいる。

が、そんなことを事前に話すつもりは毛頭ない。

僕から皆に答えを与えるつもりは無い。




予報通りに天気は晴れた。
快晴とまではならなかったが、
昨日までの天気を考えると
万々歳と言える天気であるのは間違いない。
これも、I嵐の怨念、
いや、魂の叫びだと言っておこう。

で、事前に予定されていた場所が
先日、急遽使用できなくなったので
新たな設定で芝居を作らなければならない。
つまり、こないだのロケハンの
半分は無意味となっていた。

だから、現場に着くなり
スタッフはどこで何をどうするのか
全く分からないでいる。


だからではないが、
撮影準備を始める前から
俳優部には現場に入ってもらい
芝居のテストを次々と行う。
場所の設定も含めて様々な角度から。
細かい演出はつけていない。
先日の顔合わせで人物設定は
充分話しあっているからだ。
つまり、その受け答えを
まずは見せてもらうって寸法だ。
次にやることは微修正に過ぎないので
一度、芝居が固まってしまえば、
後はとんとん拍子に進んで行く。

スタッフもこのシーンの芝居がどんなもので
どこからどこまであるのかを理解できるので
かなり話しも早い。



都合、3回ほど芝居を通しで撮影し
このカットにはOKを出した。
3テイクで5つほどカットを撮った。
多分、俳優部としては、
どんな風に編集されるかは
全く分からないと思う。
カットカットで撮影をしないので、
お芝居を3回やっただけだから。

僕はこんな風に
芝居を常に最初から最後まで
通して撮影するのが性に合っている。
M監督も同じような手法だったが、
助手で付いていた時から
この方法には共感していたのだ。
自分が演出する際には
この方法が自分にも一番しっくりいくだろうと。

で、結果的に良い方向性になった。
芝居を全員が見ているので、
意見も言い易いし
どこから芝居を見たら良いか
つまり最適なアングルの
所の検討まで出来るからだ。

一度、芝居を作れば
カメラマンからアングルの意見が出るし
その意見も皆で聞いているから
見切れやバレ物などの対応も早い。
いちいちかもしれないが、
一度、僕の元に集まって方針を決める。
この一見単純だが、
とても大事な過程を踏まえることで、
喧々諤々の時間が撮影時間より
多い気がしないでも無いが、
結果的には予定の1時間30分マキなのだ。


スタッフや俳優部が
何を撮るか、狙いは何かを
理解する時間を充分に取るだけで、
結果的に驚くほどスピードアップできる。


確かに予定よりマイて終ったが
僕自身、諦めてもないし、妥協もしていない。
幾分、余分に撮影したくらいである。


「えーと、これで終わりでいいですか?」

I嵐が出し抜けに聞いてきた。

「”これで?”だとぅ!その意味は
 こんなんで終わりでいいんですかって意味だな」

「いや!そんなことないですよ!
 先ほどのカットで終了でいいですか?と」

「”でいいですか?”ってのは、
 まだ撮る気ですかってことの裏返しか?」

「いや、違いますよ!すいません…」


I嵐の言葉遣いは、
必聴の価値があるほど面白い。
言葉の単語の選び方も変わっているし
慇懃だったり、素っ頓狂だったり、
いわばTPOの全く違う言葉の羅列が多いのだ。

いやいや、僕だって丁寧語や尊敬語、
謙譲語の使い方が完璧にできる訳じゃないが
少なくともI嵐の放つ言葉の違和感は出ないつもりだ。

で、そこがI嵐の面白さでもあるし
よく上司や部下、同僚にもからかわれる部分だ。


まあ、いちいち反応してたらキリが無いので
撮影終わりに、少しいじくってみただけだ。


「よし、これで終わりにしよう。本日終了」

17時終了予定だったが
15時30分には完全撤収完了。
予定にはなかった
明日の打ち合わせもすることができた。

明日はいよいよ雨降らし撮影だし
ナイター撮影もあるので
わざわざ今日疲れなくても良い。
いわば今日は慣らし運転。


明日も楽しいと嬉しい。








撮影は楽しい。
ずっと毎日一ヶ月くらい、撮影していたい。

と、車の中でポツリと言ったらI嵐が

「一ヶ月だと、映画ですね」

と言った。

「うん、映画撮りたいよな」

「そうですね…」





またフツフツと
眠りかけていた企画の復活を考えていた。
このVPにひと段落ついたら
次の一手を打ってみようかと。
それで進むなら良し、
進まぬのなら、また、新たな手を考えるさ。



じゃ!