新・カチンコ日記2

根無し草男の映像日記

耐える男(3)

1月11日
男は足を入れた途端
声も上げずに飛び出した。

「うっ!」

種類が違うことはあっても
ぬるいお湯というのは銭湯には無い。
いくつかの銭湯に行ったが、
どこもお湯は45度くらいに設定されている。
子どもが、ふらりと足を突っ込んで
熱くないわけが無い。
大人だって、熱いのだから。


それでも、息子は銭湯が大好きだ。
大きな湯船が好きなのか、
銭湯の入った後のポカリが好きなのか、
はたまた、夜に外に出るという行為自体が
非日常的で好きなのか、
聞いたところで、答えは毎回違う。


「足を我慢して、
 ずっと入れていると
 そのうち慣れてくるから、
 そしたら身体も入れるようになるよ」

「でも、熱いぃ」

「なら、もう出る?出て帰るかい?」

「嫌だ。我慢する!」


何故、パパが逆ギレされないとならないか?
お湯が熱いのは、俺のせいではない。
しかし、息子は片足づつ湯船に入れ、
顔を真っ赤にして耐えている。
じっと足先を見ている。
熱さに慣れさせようと
お湯を身体にかけてやったら
3歳児とは思えない形相で怒られた。

「やめて!」

は?なんだ?
なんだか、虐待しているみたいじゃないか!
そもそも、銭湯が好きだと言っているのは
自分の方だろう?
とはいえ、それが案の定良かったみたく
息子も少し饒舌になり始めた。


「よし、肩まで入って、
 あそこのぶくぶくしているとこまで行こうぜ!」

「うん、わかった。」


すでに息子の目はキラキラ輝いていた。





顔を真っ赤にして
のぼせる一歩手前だと思われるが、
息子は銭湯から出ようとしない。
一度出て、身体を洗って、また入って、
少し休んで、また入った。

なんだか、温泉宿に一泊旅行で来て
もったいないから夜入って、
夕方入って、夜中も入るみたいなノリだ。
そんなにお風呂が好きなのか…

これで、本当に温泉宿になんか行ったら
きっとこっちの方がダウンしてしまうのだろう。
それくらい息子は強い。
通常のお風呂でも、
俺と一緒に入って、
それから俺と娘は先に風呂から出るのだが、
息子は、その後に入る奥さんと合流し
奥さんが出るまで入っている。





番台で、ポカリを買う。
息子はグビグビとポカリを飲む。
キンキンに冷えたポカリを
本当に旨そうに飲む。
娘はりんごジュースを
ストローでチルチル飲む。

”プハァーッ!”と
ビールのCM的な飲みカット的な
飲みシズルたっぷりの飲み顔。

これで、”うまい!”とか言わせたら
結構使える素材にはなるだろう。

でも、1回しか出来ないけど。


帰りの自転車で息子は眠りだした。
が、奥さんが執拗にたたき起こす。
そうしないと、歯磨きも出来ないし
少しでも寝てしまうと、
帰ってから寝るタイミングがずれてしまうから。



しかし、睡魔と闘って勝てるほど息子は強くない。


睡魔に耐えるよりも
寝ながら奥さんの執拗な攻撃に耐える方が
幾分楽なのであろう。

自宅に到着する100メートル手前付近。
完全に息子は落ちた…





耐えられないよね。





じゃ。