奥の手、発動

2月13日

■この日記は撮影終了後に
　香盤表を見ながら
　数ある出来事を
　思い出しながら書いたものです。
　若干の思い違いや誇張
　脚色が含まれています。

　ご了承ください。

映画「Watch with Me ～卒業写真～」撮影日記
『奥の手、発動』

2月13日
眠い、恐ろしく眠い。
こんなに眠いのは久しぶり。
ほぼ無睡眠に近い状態で現場IN。
他のスタッフも同様に
全く眠ってはいないだろう。

それも、これも、
昨日の撮影が深夜に及んだからであり
及んでも尚、朝からの撮影を組んだからであり
そんな香盤を組んだのは俺であり
それを必要としているスケジュールであり…
なのである。

とはいえ、さすがに
6時集合出発という時間設定を
2時間ずらし8時集合出発にしたので
多少眠れた奴もいたはず、
いや、そう思いたい。
しかし、本当は1時間だけ遅らせてと
考えていたのだが
昨晩、あるミスがあり
1時間が2時間遅らせる羽目になってしまった。
スタッフ的には嬉しいことかもしれないが
頭痛の種がまた一つ増えたことになるのだ。
ただでさえ、スタッフからは
『今日は、さすがに早く終わるよね？』とか
『こういう時、奥の手を
　持っているんだよチーフは』など
よくわからないが、この分量で早く終われる
いやいや、俺が撮影を途中で切り上げると
予想、期待した発言が飛び交う。

すげー頭痛い。





ある程度余裕のある
スケジュールならいざしらず
ほとんど、いや、全く余裕の無い場合。
かなり精密な計算をして香盤を立てる。
その精密ってやつがいかほどかは
高が知れているが。

で、今日は朝一番で
外回りの撮影を考えていた。
のだが、2時間の開始時間の遅れと
今日の撮影の分量を考えて
シーンの内容を変更した。
させてもらった。

今日は、一日病院内での撮影である。




昨日から引き続き
今日もオールスター出演である。
流れとしては全く逆であるが
主人公和馬の同級生たちが
帰郷した病室を訪ねてくるというシーン。

で、このシーンが長い長い。

台本上で7ページとか8ページもあり
ボーッとしてたら
このシーンだけで一日終わってしまう位ある。
その上、オールスター出演でもあるから
現場もバックグランドも大忙し。
それに、クランクアップが見えてきていて
伴い、俳優部のスケジュールも見えてきている。

それは、スケジュールのデットエンド。


○○さんは△月×日までしか
久留米にいられません。

ってやつだ。


ここで、撮影できないと
完全にボツ。
不本意に削られるシーンとなる。

それは避けなければならない。

この長いシーンを撮影している間
俺は、ずっと、今日の撮影分と
明日の撮影分を秤にかけていた。
明日も同じ病院の撮影であるから
多少の日程前後はありうる話し。
俳優部のてっぱりを考えて
撮影内容に優先順位をつけていく。


そして、現在の撮影ペースと
残りの分量を考えて出した答えが

『撮影しきれない』

であった。
測らずも、ここで誰にも言っていなかった
『奥の手』を発動する可能性を
現場プロデューサーに相談する。



「やっぱり無理か？」

「今日次第ではあるけども、
　昨日があれで、今日は多分無理。
　今以上ペースが上がるとは思えない」

「そうか…わかった。確認とっておくよ」

「よろしくお願いします」



奥の手は
プロデューサーと俺しか
知ることのない情報で作られている。
もちろん、監督でもしらない話。
ギリギリまで話すつもりもない。



今日撮影したシーン
S#17　23A　72　81　83　14　56　16　57　112