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新・カチンコ日記2

根無し草男の映像日記

溢れ出る熱い熱い涙。

映「Watch with Me~卒業写真~」撮影日記 冬

2月12日

■この日記は撮影終了後に
 香盤表を見ながら
 数ある出来事を
 思い出しながら書いたものです。
 若干の思い違いや誇張
 脚色が含まれています。

 ご了承ください。

映画「Watch with Me ~卒業写真~」撮影日記
『溢れ出る熱い熱い涙。』

2月12日
徹夜で仕事をしたことがあるだろうか?
全く寝ることなく、
終始動き回り、頭も回転させ続けて・・・

撮影では度々?作業が深夜に及ぶことがある。
本来はそうならないように
一日の分量を計算して撮影に望むのだけれども
途中で突発的な事故や事件があったり
予想以上に時間のかかる芝居であったりすると
その計算も全然アテにならなくなり
結果、22時終了が、23時、23時終了が24時・・・

今日の撮影終了予定時刻は23時30分。

一歩間違えば深夜ないし朝!の
ギリギリ香盤である。




7時ホテル出発。
昨日はナイター撮影もなく
日が沈む前に終了したので
少し早めの集合出発。

いや、今日が一杯一杯だからこそ
昨日の撮影を夕方で終えたんだけでもね。

さて、今日の撮影は主人公和馬の家。
ラストシークエンスにかかわることなので
詳しい内容は控えるが
撮影内容としても、芝居の重要さとしても
一日で終えられる分量を遥かに越えている。


そうだ、初めからわかっていた。
今日の撮影が重たいシーンの連続で
どう計算しても作業が深夜になることを。
しかし、今日という一日に
詰め込んで撮影をしなければ
ラストシーン無しの映画が完成することになる。
いや、完成ではない、完全な破綻だ。
そもそも、スタッフはプロの集団なので
今日の撮影前から
この日が一番重い日であることは
総合スケジュールを渡した時点で覚悟していて
朝から準備のスピードが違うのが一目瞭然。
どんどん撮影していかないと
今日の撮影は終わらない。
朝になってしまう。
いや、朝を過ぎても撮影をしているかもしれない…




そうは言っても
和馬を蝕む病魔と同じように
時間は1秒1秒と進んでいく。

お昼の段階で1時間香盤とズレがあった。
いや、正確に言うと1時間押していた。
ラストシークエンスである以上
あまり、強引に巻いて巻いてとは
言いにくい。
映画のためにも、じっくりと撮影したい。
でも、朝まで撮影するのはちょっと…





「はせさん、
 ちょっと相談があるんですが」





セットチェンジ中に明日の香盤を考えたりしながら
現場をプラプラしたいた僕を
津田さんが呼び寄せた。
”相談?一体なんの?”

こういった場合の相談には
いくつか想定されることがあった。
直接、僕を呼び出して言うというこは、
段取りの問題か、芝居の問題か、
はたまた単なる雑談か?

直感的に、
”現場がひっくり返るかもしれない”
そう感じた。
そう思わせたのは、
普段終始笑顔の津田さんの表情が
いつになく真剣だったからでもある。



「なんでしょう?」

「いや、俳優部全体で相談したいんですが」

「え?俳優部全員で、ですか?」

「ええ、監督に提案する前にと思って…」

「わ、わかりました」




すでに次の芝居の段取りを終え
事態はライティングの準備中。
整えばすぐに撮影できる状態。



「はせさん!準備間もなくです!
         今どこですか?」


I嵐がのん気にシーバーから俺を呼ぶ。
それもそうだ、I嵐は今の俺の状況を知らない。

「わかった。スタンバイ完了したら、
 
そのまま待機。
 監督の所存を確認しておいてくれ」


「え?何があったんですか?
 あ、あの監督は現場にいます」


「…しばし待て」

「…了解です」




I嵐やスタッフを無用に心配させても意味がない。
じれったいだろうが、何も言わず待たせることにする。

ラストシークエンスだけに
今日の俳優部控え室には
同級生キャスト全員が集合している。
昨日のオールスターとほぼ同一だ。

そんな控え室に顔を出すと
勢ぞろいしたキャストが一斉に俺を見た。


「さきほど、段取りをした
 シーンのことなんですが…」



津田さんが口火を切った。
それは、役者としての感情の話し。
役者はロボットではない。
台本や監督の意向で
動いてくれはするが、
”納得している”ことが大前提である。

納得した上で芝居をしたい、動きたい。

だから、現在準備中のシーンに関して
どうしても提案をしたい。


さすがに何度も映画に
出演されたことのある方々である。
現在準備中であり、
間もなくスタンバイになるというこの瞬間に
監督に直接言うのは
へたをするとひっくり返すことになりかねない。
だからこそ、その前に演出部の俺に
相談を持ちかけたのだ。
我々の意見・提案は現場を圧迫しないだろうかと。

すこし、話しはずれるが
こういった場合よくあるのが
スタンバイ中に関わらず、
その流れを監督が把握しておらず
ギリギリになってひっくり返すってこと。
スタッフのとっては青天霹靂で
やる気もそがれるし、時間が深夜ともなれば
その衝撃はすさまじいものがある。

その衝撃を避けるために
俺を呼んだ。

俳優部の意見を聞きながら
そう、俺は感じた。



今日、この現場に
時間が深夜だからといって
さっさとやろう、手を抜いてやろうと
考えている人間は一人もいない。
どれだけ時間がかかっても
素晴らしいシーンを作ろうとの思い。



「なるほど、僕個人としては賛成です。
         監督に提案しましょう」

「あの、段取りに迷惑かかりませんか?」

「迷惑?あるわけないじゃないですか!」





すぐに現場に飛び監督に相談。
監督が控え室に行っている間に
スタッフに今何が起ころうとしているかを説明する。
また、どちらの提案になった場合でも
対応できるようにプランを練り直してもらう。

スタッフに説明して、また、控え室に向かう。



すでに、提案は進んでいて
監督を含めた全員が思いをぶつけている。
時に熱く、時に笑いながら、



「はせくん。聞いてたね」

「ええ、現場に伝えます」




全員が納得する形。
ここにきて、また結束が強くなった気がした。


「I嵐!スタンバイ変更!プランBだ!」

「了解です!」



時間はすでに深夜12時を回った。
室内はライティングにより
夕方の光に包まれている。

早く終われと思う前に
早く、芝居を見たいと切実に思った。










ラストシークエンス。
スタッフの多くが
あふれ出る涙を押さえながら
俳優部の芝居を見た。


溢れ出る熱い熱い涙。


久しぶりに現場で泣いた。
多分、古い家屋から出たホコリのせいだと思う。
目を拭いても拭いても流れ出るのは
このホコリのたちが悪いせいだ。
鼻水をすすりたくても
本番中に音は出せない。

ハウスダストアレルギーだな。


ラストシークエンスが
撮影し終わった瞬間に直ったけどね。