新・カチンコ日記2

根無し草男の映像日記

オールスター

2月11日

■この日記は撮影終了後に
 香盤表を見ながら
 数ある出来事を
 思い出しながら書いたものです。
 若干の思い違いや誇張
 脚色が含まれています。

 ご了承ください。

映画「Watch with Me ~卒業写真~」撮影日記
『オールスター』

2月11日
少なからず、俳優部と我々スタッフ間には
ちょっとした扱いの差がある。
それは良い意味でも悪い意味でも。
そもそも、考え方としては
演出部、俳優部のような部署であることに
違いはないのだが、
被写体となる俳優部には
それ相応の対応が必要になる。

いや、無理に気を遣ってとかではない。
被写体である以上
体調面や心理面など内外の問題は
そのまま映ってしまう。
それが、映画として”アリ”ならば
そんな演出方法も”アリ”だと思うが
今回の内容は、そーではない。

はやり、落ち着いて芝居に現場に
望んで欲しい。
だから、我々は俳優部に対して
どんな状態で待ってもらうかや
待ってもらう場所などを考えるのだ。


で、今日は・・・


オールスター出演日である。
出演者数11名。
それに子役たちも呼んでいて
尚且つエキストラも沢山いて
取材も沢山入っていて


段取り地獄。



7:00ホテル集合出発。
昨日、夜遅くとも
今日が今日だけに朝一番の出発。
つーか、モーニング設定だから仕方がない。

ああ、この仕方がないという言葉。
もう何度言い放ったか分からない。
使いたくない言葉ナンバースリーだね。

ちなみに、ナンバーワンは
『とりあえず』
ナンバーツーは
『一応、』である。


さて、朝一番からエキストラ30人である。
草野町のゲートボールチームに
お越しいただいてゲーム中に
主人公の伯母と伯父が尋ねてくるというシーン。

このシーンはイントレを組んで
高い位置からフカンで撮影したいとのことから
朝から冷たい冷たい鉄製のイントレを運び
グランドにおったてた。
カメラも照明部スタンバイして
エキストラの動きも準備して
さー本番という時に

”太陽が昇るのを待ちたい”

は?

イントレの上から声が聞こえた。

「はせくん。あそこの太陽を待つ時間ある?」

「(ねーよ!)……ちょっと待ってください。
 どの位待ちたいんすか?」

「うーん、10分、いや、15分。ダメ?」

「(ダメだよ!)15分したら太陽出ます?」

「いや、わからない」

「……日の出はちなみに7時07分です」

「そーかー、そうすると
 7時30分かなぁ、8時かなぁ」

「(かなぁーって!)そーですか
      …なら待ちますか」

「そうすると助かるなぁ」

「狙いなら仕方ないですよぉ~」



「I嵐!少し香盤押すぞ。
 次の路地、巻けるか?」


「いや、きついっすね!
 着替えが結構かかります」

「どこでケツ合わすか…」





だが、次の現場でも似たようなセリフが。
またもイントレの上から聞こえてきた。



「お昼ならばっちりなんだけど」

「お?お昼?無理、
 それだけは無理っす。勘弁してください」

「あー」

「だって、最高の天気っすよ、今日は!」

「もう少し待てばもっと最高かもしれない」

「わかります。わかりますけども、
 そうすると、撮り切れない状況になります。
 今日の段取りをもう一度組むとすると
 それはもう大変なことになりますよ」

「……なら撮るか」

わかる。わかるよ。
最高の状況で撮影したい。
これが誰しもの希望であることなんて。
でもね、それを許されるだけの時間が
もう、僕には残されてないの。
この素晴らしい天気で
更に待つのもわかるよ、わかる。
待てば、もっと良くなるのだって。

でも、仕方がない。

無理なものは無理。
これを覆すのは僕の判断ではできない。


「すいません、撮ってください。
 チャンスがあればまた組みますから」

「そんなチャンスあるの?」

「ありません」

「……正直だなぁ、はせくんは」









「スタッフ移動するよー!
 中学校へ移動!オールスター準備!!」

「へーい」



中学校の控え室としてお借りした場所は
前回夏篇でもお借りした保健室。
学校内で二つしかない空調のついた部屋の一つだ。

ここに、出演者一同が全員集合している。

それは、もう大変な状況だ。
ヘアメイク部も二人しかいない訳だし
次々とやってくる俳優部にも対応しないとならないし
写真撮影で呼んだ、夏篇の子役たちも
このスペースの中でひしめきあっているし・・・

ああ、ここはカオス?

ここで、セカンドであるI嵐の
メイク順番の指示が間違っていると・・・
必要なシーンに役者が出来ていないで
無駄にメイクが終わった役者が待っている
というような事態が起こってしまう。

頼むぞ、I嵐。

そこまで気が回らない位に
現場もカオス状態である。
次々とエキストラが押し寄せ
グランドで待ってもらったり
バスに移動してもらったり
芝居を覚えてもらったり
その間、俳優部は
写真撮影が入ったり、取材が入ったり、
3人いるはずの演出部が
現場から一人、また一人と消え
裏で動きまわっている制作部も
裏が忙しすぎて、現場に来れず、


「M木ぃぃぃ!」

「はい!」

「演出部復帰!このカットだけでも」

「はい、了解っす!」



あまり、褒めても何の得はないが
このM木が頼りになる男だ。
こういった切羽詰った状況になればなるほど。
しっかりとした現場認識と段取りが
さっと理解できるからであろう。



「M木!バスからお年寄りを
 サーと歩かせて!」

「了解!方向は?」

「学校正門に!で、まばらでよろしく!」

「了解、やってみます!」

「いや、すぐ本番いくぞ」

「え?ちょ、ちょっと待ってください、
 仕込みますから!」

「仕込みながらで回す。行け!」

「わー!」

「I嵐!下はM木に任せて
 上に上がって来い!」

「はい!」

「俳優部の居場所の確認と
 次の段取りを作っとけ!」

「はい!」

「よーい!はい、出した!スタート!」



ツーテイクでOKが出た。
さすが、M木。
I嵐もよくやったぞ。
つーか、偉そうなことを言って
俺は何もしていないが。


そんなこんなで、
撮影、写真撮影、取材、撮影、写真撮影・・・
目まぐるしい一日が過ぎていく。
今日の勝負は日没まで。
それまでに、カタをつけなければならなかった。

ふと気が付くと
教室内で待機していた俳優部が
小宮さんを主体として
なにやら漢字のゲームをやっていた。

何もお構いしませんで・・・すいません。

そっと遠くから眺めてた。
もう少し、もう少し、その漢字ゲーム続けてください。
そう、遠くから念を送ったのであった。



今日撮影したシーン
S#71 R137 39 49 73 73A 73B 73C 73D 73E 53