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新・カチンコ日記2

根無し草男の映像日記

巻き返し

2月10日

■この日記は撮影終了後に
 香盤表を見ながら
 数ある出来事を
 思い出しながら書いたものです。
 若干の思い違いや誇張
 脚色が含まれています。

 ご了承ください。

映画「Watch with Me ~卒業写真~」撮影日記
『巻き返し』

2月10日
昨日、落としたS#37。
天気の都合とは言え、
そのしわ寄せはすぐに今日やってきた。
正確には今日にしわ寄せた。

どうしても香盤にはまらなかった
病院テラス部分から見た和馬のシーン。
それを無理やりはめたのが今日。
そして、昨日の残をはめるのも今日。

それだけで今日という一日が目一杯なのが
おのずと判明するというもの。
俺は朝から演出部に発破をかけた。

「I嵐、T田よ」

「はい!」

「今日は巻くぞ、巻かないとこぼす。
 いや、深夜残業になる公算が高い」

「はい」

「ましてや、夕方には薄暮狙いがある。
 薄暮までに香盤通り消化しないと
 大変なことになる」

「わかってます。やります!」

「I嵐、下のエキストラ配置を任す。
 上の段取りは俺がやる。
 T田は上でパチパチと
 カチンコ叩いてやがれ」

「はい、わかりました!」

「ジー。俳優部車、ホテル出ました」


時計を見る。
5分ほど早い出発。
それに、移動時間を30分香盤で見ていたが
実際のところ10分以内で現場には着く。
香盤に隠した裏の時間配分を
朝から使う。

「俳優部入りまーす!」





予定通り事は運んだ。
レールの準備しかり、
下のエキストラの段取りしかり。
昨日、監督に”巻きますよ”
言ったせいだろうか
監督自身も積極的に現場で指示を出して
”巻き”に協力してくれている。

いや、巻かないと昨日の残分は
撮影できないのだ。

こんな連携プレーが毎日できれば
撮影なんてあっという間に終わってしまうだろう。
が、それを出来ないのも人間。
ゆったりがあるからこその”巻き”
予定よりも30分早く次の現場に到着。

すでに、先発した照明部が
昨日のライティングを再現している。
その後ろ姿は

『いつでも来いやー!』と言っているようで
非常に頼もしい。
こんな時、一番頼りになるのは
やはり照明部さんなのだ。
細かいことはどーでもいい!
かかって来いや!の後姿。



俳優部、津田さん、羽田さんも
昨日落としたシーンが今日入ったことを
了承しているので
現場がどのような状況であるかを
分かっているかのように
支度をスピーディーに上げてくれる。
こうやって、全ての部署が一丸となって
今日の香盤を消化しよう
少しでも撮影時間を作って良いものにしようという
意気込みが現場の雰囲気を
リラックスしながらも程よい緊張感で
進ませることになるのだ。

はっきりいって
今回のスタッフは素晴らしい。
さすがに、毎日顔を会わせているせいか
嘘が無い、取り繕いがない。

とってもやり易い現場だ。


だが、時間は迫る。
昨日の残分を撮影し、
その後、薄暮狙いで移動し
また、同じ現場に帰って来なければならない。
無駄なようだが、仕方がない。
薄暮狙いまで

”巻いて”

”巻いて”

”巻くしかない”





予定通り草野町にある消防団へ到着。
ここは、撮影に多大な協力をしてくれた方が
所属する消防団詰め所。
特別出演の高杢さんも登場する楽しげなシーンだ。

で、その楽しげなシーンで一つ仕掛けを用意した。
時間が無い中、急いでいる中で
俺はあえて仕掛けを用意した。



消防団詰め所のシーンは
リアル消防団の方々がひしめいていて
高杢さんを中心とする方々と
主人公らが昔話で盛り上がるという内容だ。
で、問題なのが『盛り上がり』という部分。
実際の映画で必要な部分は
全員がワーッと笑った部分から使いたいのだが
皆さん役者ではないので

「さー、笑ってください」

と言っても笑うことなんてできやしません。
それができたら、すぐに役者です。

で、ここで仕掛けを作った。

仕掛けと言っても簡単な仕掛けである。
ようは本番と伝えずに本番を撮影するというもの。
実際、こちらの準備中は
高杢さんの話術で皆が腹を抱えて笑っている。
監督はその自然な笑いを撮影したい。

なら、自然に笑っている時に撮影しましょーよ。と。

俺は準備時間中に
俳優部に個別に話しかける。

高杢さん、次のシーン頭で
 一発かましてください。
 そこを狙って撮影します。が、
 よーい、スタートと言ってしまうと
 消防団員が緊張してしまうので・・・」




高杢さんがニヤリと笑った。


「わかった。それは楽しそうだ!」

「津田さん、次のカットし掛けます。
 いきなりセリフが始まりますが、
 対応してもらえますか?」



津田さんもニヤリとした。


「誰の合図で始まるんですか?はせさん?」

「はい。僕が有福さんにキュー出して
 ・・・カメラ回ります」

「了解です!」



「羽田さん。次、
 いきなり芝居始まりようにし掛けます」

「私はそれに合わせればいいのね?
 分かりました。楽しそうね!」



「EIJIさん!うまいこと、お願いします!」

「え?な、何を?」




「有福さん!僕のキューで
 芝居スタートですから!」

「はい、わかりました」



撮影準備が終わり
にわかに現場には緊張感が走る。
タイミング勝負である。
高杢さんが笑わせて、
一番盛り上がる一瞬手前でキューを出す。
もっと手前でカメラにキューを出し、
もっともっと手前で録音部にキューを出す。
その事前準備を悟られてはいけない。

このし掛けを思いついて
それを実行しようとするのは俺だ。
俺のミスでこの”仕掛け”はパーだ。



高杢さんが軽快なトークで
現場を笑わせている。

僕は、録音部のマイクを引き寄せ

「南さん!まわしてください」


背後にあるカメラ横の監督に
アイコンタクトする。
”ぼちぼち行きましょうか!”

監督がうなずく。

カメラ、スタートのキュー!

監督がカメラが回ったことを
眼力で返してくる。

芝居スタートの合図である
有福さんにアイコンタクト。
”もうすぐいきますよ!”


場がドッと盛り上がる!


それ、今だ!
キューーーーー!









室内シーンが終わり
高杢さんがやってきた。

「いやー、久々に緊張したよぉ~
            楽しかった!」

「ありがとうございます!」






「よーし、ナイター準備するよー
 先ほどまでいた現場に再度移動!」

「へーい」



まだまだ撮影は続く。


そして、次の現場でも
高杢さんは面白かった。


つー、話しはまた次回。





今日撮影したシーン。
S#84 85 37 88 54 55 106 115