新・カチンコ日記2

根無し草男の映像日記

タイムリミット

1月25日

■この日記は撮影終了後に
 香盤表を見ながら
 数ある出来事を
 思い出しながら書いたものです。
 若干の思い違いや誇張
 脚色が含まれています。

 ご了承ください。

映画「Watch with Me ~卒業写真~」撮影日記
『タイムリミット』

1月25日
撮影には様々な制限・リミットが
設けられている場合が多い。
例えば、映して良い範囲の指定や
機材を置いて良い場所の指定。
そして、時間の指定・制限だ。

これらは、守らなければならない事項だし
守ることを条件にその場所を
使用できるのが前提である。
しかし、その分、香盤の時間配分や読みは
正確にしなければならない。
場合によっては1分1秒の誤差も許されない場合もある。
そういった制限のある場所での撮影は
必然、緊張するし、感情の起伏も激しくなる。
つまり、怒りやすくなる。


今日、撮影する場所は『空港』

制限だらけの場所だと
想像するに容易いだろう。




6時30分。
日の出前の真っ暗な中を出発する。
撮影に向かう場所までは約1時間。
到着して準備をすると
ちょうど日が昇って
15分くらいのタイミングになる。
それから劇用車を仕込み、
何度かのテストを経てのshoot。
あらかた読み通りにことが進んでいくが
どうしても10分から30分ほど
進行が遅く感じられる。

朝一番で”マキ”を入れることは
僕の中では有りえないし
入れられてもすぐに進行が早くなる訳でもない。
人間にはペースというものがあり
それを崩して進行すると
必ずどこかでガタがくる。
ミスが出る。
今回のスタッフには今回のペースがあるのだ。
それを無視してまで進行はできない。
それをするくらいなら

きっぱりと降りると言える。

しかし、場所はとある空港。
時間制限も場所の制限もある。
尚且つ、撮影後に予定されている
記者発表に向けて
俳優部を予定時刻に間に合うように
現場から出さなければならない。

香盤にはこう書いておいた。



『本日、二つの制限あり、ダブル制限です』


ただ思いついたから書いただけだが
ダブル制限はやはりきつい。
たとえ、進行がスムーズにいっていても
時間通りに俳優部を送り出すまでは
このドキドキ感は拭いされれない。

刻一刻、人間が歳をとるように
時間は進む。




「I嵐!外回りで劇用車の走り撮ってくるから、
 その間にロビー内のエキストラ、芝居つけとけ!」

「は、はい!」

「できるか?」

「はい、できます。やらせてください!」

「わかった。最後にチェック入れる。がんばれ!」

「はい!」

撮影本隊は機材車と劇用車とで
一時空港を離れた。
一抹の不安を抱えながら…




空港が近づき
そろそろトランシーバーが届く範囲にきた。
一抹の不安を解消するために
シーバーからI嵐を呼ぶ。



「I嵐!どうだ?そっちは」

「えーと、ばっちりです!」

「自信ありだな?」

「え、いえ、チェックしていただかないと…」

「は?なにぃ?」

「いえ、大丈夫です。自信あります!」

「よし、わかった。すぐ行く!」

基本的にエキストラ関連の芝居つけは
現場の中心であるセカンド助監督が担う。
つまり今回の場合はI嵐が
エキストラに芝居をつけていかなければならない。
しかし、I嵐にはそのセカンドの経験が不足している。
この絶対的な事実を知るからこそ
余計に言葉をかけ
I嵐にプレッシャーをかけていく。
いずれ、どこかで、やらなければならないのだ。
それが、たまたま、俺のいる今回の現場であるのなら
それを許容してやらねばならない。
もし、監督が気に食わないような
動きであれば、すぐに直せる自信が俺にはある。

だから、こそ、I嵐に全てを託す。

車から飛び出すようにして
ロビーに向かった。


「I嵐!いっぺん動かしてみろ!」

「はい!では、みなさん、
 配置についてくださーい」

「よーい、はい!」

「…、…、」

「カット!」

「I嵐。」

「はい、どうですか?」

「うん。いいよ。まんまでいこう」

「はい!ありがとうございます!」

日記上だから書くが
いくつかの問題はあった。
が、それは俳優部が入ってみて
総合的に見ればわかること。
現状で俳優部の動きまで予想して
エキストラの動きを作るのは
相当難しい芸当である。

それを自分で気が付いて直さなければ
I嵐の訓練にはならないし
このシーンを一人で作ったという
経験にはならない。

いや、ダブル制限の中、
映画学校じゃねーんだよと
言われかねない状況だが、
それはそれだ。

俺が仕切る、俺の現場だ。

I嵐に期待をかけて何が悪い。
奴はできる子だよ。きっとね。



空港内に入り
I嵐が動かすエキストラと
俳優部の芝居が重なりあう。
監督というものは
おおよそ、だいたい、ほとんど、
メインの芝居しか眼中にないので
合わさったところで
I嵐に微調整を発注する。

いや、しようとした。

すでにI嵐は微修正を始めていた。

とても、嬉しい気分になる。
何かを用意したり、
調べものをしたりと
我々助監督にはたくさんの仕事があるが
メインではないにしろ、
芝居をつけることを楽しいとか嬉しいと
思っていなければ
演出部としては『やばい』。

死ぬ思いをしながら準備した
このカットのクオリティーを
上げるのも下げるのも
演出部次第であるからだ。
衣裳やメイク、美術品は
それぞれ担当の部署があり
演出部がはっきり言って何もしなくとも
絶対的なクオリティーを維持してくれる。

が、エキストラの芝居に関して
誰も助けてはくれない。

だから、がんばれI嵐。


ダブル制限で時間がなくとも
俺は待ってやる。






14時。
俳優部制限時間。

俺たちはすでに撮影を終え
片付けに入っている。

時間通りに送り出し
時間前に撮影を終えた。


今日はなんだか気分が良い。
快晴の天気のせいか、



それとも、I嵐のおかげか…





今日撮影したシーン
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