新・カチンコ日記2

根無し草男の映像日記

目算・採算・誤算

9月9日(土)

■この日記は撮影終了後に香盤表を見ながら
 数ある出来事を思い出しながら書いたもので
 若干の思い違いや誇張や脚色が
 含まれていますのでご了承ください。

映画「Watch with me 卒業写真 夏篇」撮影日記

午後から雨という予報が出ていても
自分が外にいて
そんな気配すら感じずに
カンカンに太陽が出ているとしたら
それでも天気予報を信じるだろうか?
それとも、自分の目とカンを信じて
香盤を変更してでも
太陽を追いかけるだろうか?

目算として、香盤をひっくり返すことで
全ては解決することができて
尚且つ、予想通りの映像が撮影できると。

今日で全ての撮影の採算が取れ
夏篇のクランクアップを迎えることができると。

その、全てが誤算であり
結果が全ての仕事において

「こんな結果は誰も予想しなかった」
と言わせてしまった。
誤算はすぐに計算に変わり
次の段取りへの勝算を
弾かなければならない。
自分を呪う前に
まず、携帯電話を持って走りまわった・・・

9月9日(土)【目算・採算・誤算】

本来なら昨日の段階でクランクアップだった。
俺のパーフェクト香盤では
9月8日の段階で全ての予定された
カットを撮影し終え
9日10日とチケットの関係で
東京には帰れずに
有給を楽しみ・・・
11日から12日にかけて帰京!
なーんて、甘いことを考えていた。

いや、考えるのは無料だし
それは思考の自由というものだ。
誰にも止める権利はない。
とはいえ、結果的にこの
余裕を持ったスケジュールが
夏篇の撮影をギリギリで
助けることにもなった。



8月29日、30日、31日に予定していた学校撮影。
29日と30日は雨の中かろうじて撮影はしたが
グランドや外にアングルを向けた撮影は
まるっきり残になっていた。

分量にして1.5日分。

教室内のシーンはあるし
グランドでの野球部のシーンもある。
体育館の撮影だって残っている。
盛りだくさんの一言では
到底片付けられないくらいの
慌しさが予想された。
もちろん、天候はそんな我々の
余裕のなさなど気にも留めずに
空を晴れさせたり曇らせたりする。

到着して、
学校の外観を撮影している際
空を見て、強烈な不安が横切った。



香盤の段取りはこうだ。
午前中は教室内を撮影し
午後からグランドの撮影。
日が落ちきる前に体育館前にうつり・・・
これは、天気予報ではなく
最近の天気の動きというか
午後から少し良くなるという目算であった。

が、午前中の空は快晴状態である。
このまま一日晴れていれば
この香盤は成立するのだが
天気予報は午後から
天気は最悪になると告げていた。
この快晴が最悪の状態になるとは
にわかには信じがたかったが、
もはや誰を信じていいのか?

このままの香盤で撮影していて
もし、天気予報通りになったら
予定している午後からのグランド撮影は
何一つ撮影できないままになってしまう。
予備日としていた今日を
撮影で使うということは
予算などの面から見ても
打撃であり
できることなら予備日は
使わない方が好ましい。

だからこそ、
今日一日で撮影しきらないとならないという
重いプレッシャーがのしかかっている。



「演出部集合!」

「ういー」

「香盤を午前と午後で
 テレコにしたいが対応できるか?」

「いや、野球部を呼んでいる時間が・・・」

「後、数時間来ないんだよな、知ってる」

「それでもGOと?」

「空が恐らくもたない。行く。行くしかない。
 今日で全てにケリをつけよう!」

「了解です!ちょっと現場離れて準備します!」

「うい、よろしく!」

「はい!」

「スタッフのみなさーん!香盤変更でーす!」

「へーい!」


× × × × ×


最大の誤算は
グランドの撮影に
想像以上の時間がかかってしまったことだ。

これは我が演出部の手落ちもある。

いや、演出部の手落ちでしかない。



午後からの雨。
天候は予報通りに
あれよあれよと曇りになり雨となった。
午後1番でグランド撮影を終える予定が
雲と雨とで、度々中断を余儀なくされる。


このまま、グランド撮影を続けるか?

もしくは、早々に切り上げて
グランドを残にして
教室撮影に入るか?
しかし、グランド撮影を残すということは
かなり大人数のエキストラに
またご足労をかけなければならないし
次回、同じ人数で同じメンバーが集まるとは
はっきりって言いがたいし無理だ。

だから、なんとしてもグランド撮影は
今日、この日に撮り終えたかった。


「天気大丈夫?」

「切り上げた方がいいんじゃない?」



意見は意見として聞いておく。
が、それは無理な相談だ。
絶対に今日、グランドは撮りきる。
そうしなければ、このシーンは台無しになる。

ここは踏ん張るしかないのだ。

パラパラと小雨が降ったり
ちょこっと晴れたりと
はっきりしないせいもあり
すぱっと判断できない。

『待つ』

それしかない・・・



しかし、晴れても曇っていても
太陽は沈んでいく
太陽が沈んでしまったら
教室内の撮影もできやしない。
教室内の分量を考えると
夕方前には移動しなければならないだろう。

牛歩のように撮影を進める。
時間は早送りのように進む。

残された時間はわずかしかない。






16時過ぎ。
なんとか、グランドの撮影を終え
教室内の撮影準備に入る。
残すは2シーン。

この二つが終われば
夏篇の撮影が全て終わる。

カット数は全部で11。

日没から計算すると
1時間で3カットから
4カット撮影しないとならない。
今までで一番のスピードが要求される。








が、






快晴状態から
外は完全に嵐に変わっていた。
太陽の光が全く届かない。
ライトをいくら炊いても
明るくならない、光量が足りない。

いてもったってもいられずに
俺は現場を離れた。
この状況で撮影を続けるの?という
スタッフの視線が指すように痛かったから。

俺が離れることで
半ばないがしろに
撮影を進めて欲しかったからである。



「おーい!はせー!」


遠くから監督の声が聞こえた。
どうして、このタイミングで俺を呼ぶか?
どんな話しがあって俺を呼ぶか?

答えはわかりきっていた。

だから、聞こえていたが無視して
学校の階下に降りて姿を消した。



「はせさん、はせさん、
         監督がお呼びです」


トランシーバーから
セカンド助監督M木の声。

「大至急、はせさん、連絡ください!
 撮影できないって言ってます!

                はせさーん!」

「・・・」



こんな豪雨になったにも関わらず、
俺はたまたま外にカバンを忘れてしまっていた。
大事な大事な道具類が
雨に濡れてびしょびしょになっていた。

撮影を抜け出して
一人、ウエスを出し
保健室で道具をひとつひとつ
丁寧に拭きあげていた。


泣きながら・・・(嘘)



はせさーん!」

「なんだい?」

「大至急現場へ」

「・・・わかった」


現場に向かうと
教壇のところで
メインスタッフがまるくなっている。
俺が顔を出すと
一斉に顔を向けた。

『きたな』

即座に思った。
今、一番聞きたくない話しを
彼らは俺にしたいのだ。

『この状況じゃ無理、撮影無理』と。

俺は勤めて明るく聞いてみた。



「どーしたんすか?休憩っすか?」

「・・・照明部さんががんばってくれているんだけど
 どうしても、光量が足りないんだ」

「足りない?真っ暗なんですか?」

「いや、そーじゃない。つながらないんだ。
 それに監督の意向を汲む限りは
 このままじゃ撮影はできない」

「・・・残にするということですか?」

「うん。秋篇撮影の時にくっつけるとか・・・」

「・・・それは絶対につながらないっすよ」

「しかし、このままじゃ・・・」


「・・・S根さーん!」

俺は、学校側が無理だと言っている
明日の予定を聞きだす腹づもりだった。

明日は日曜日。

参加してくれている子どもたちも
明日の日曜ならなんとか参加してくれるだろう。



「無理?月曜なら!って
      ・・・平日じゃん!」

ここから苦渋の決断と
無理強いの連絡大会開催となる。


今日撮影したシーン
S#43 40 66 46 45 17A