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新・カチンコ日記2

根無し草男の映像日記

がたんごとん。

9月8日(金)

■この日記は撮影終了後に香盤表を見ながら
 数ある出来事を思い出しながら書いたもので
 若干の思い違いや誇張や脚色が
 含まれていますのでご了承ください。

映画「Watch with me 卒業写真 夏篇」撮影日記

料理やお店などでは
よく”仕込み”と呼ばれる
事前作業があるが
撮影においても
”仕込み”というのは
かなり重要であり
この仕込み次第では
撮影自体が
なりたたなくなる場合もあるし
映像的に大したことに
ならなくなったりする。

撮影という行為自体が
映画という完成形においての
素材集めだという考えを用いると
この仕込みというのは
正に料理における下ごしらえであり
棚に商品を並べて値札をつける作業であり
お客さんに見せる前に
やらなければならないことである。


草野風流しかり、
野球大会、剣道大会しかり、
教室内撮影しかりである。

その中で、難易度の高い仕込み撮影といえば

【電車がらみ】の撮影である


9月8日(金)【がたんごとん】


俺の貧乏ゆすりは、
はっきり言って度を越した程になっていた。
激しいとかイライラするとかじゃなく
身体全体が貧乏ゆすりで揺れているような・・・

何度も何度も自分の腕時計を見た。
携帯の時計も見た。
マイクロバスの時計も見た。

カーナビの到着予想時刻は
俺の香盤での到着予想時刻から
遥かに度を越した時間であった。
12時までに到着しなければ
なんの準備もできないまま
電車は走りだしてしまう!


そーだ!今日は電車撮影なのだ。
それも1日中電車の中での撮影である。
山口県にある山陰本線
1車両借り切っての撮影。
しかし、いくら貸切とは言っても
遅刻したから電車を遅らせてくれと言って
はいそうですかとは絶対にならない。

それが電車だ。

出発予定時刻は13時54分。
本来なら13時前に到着して
昼食を食べてから車内に機材を搬入し
みっちりと芝居テストをして・・・
まだかよなんて言われてやっと出発、的な
考えで香盤を組み立てていた。

が、到着予想時刻は
        ・・・13時00分。




は?

は?

はーーーーーーーぁ?




俺は何度も何度も時計を見た。
ドライバーのS井さんにも聞いた。

「12時って無理?」

「えー、あと30分じゃ着かないね」

「あー、やっぱりカーナビ通り?」

「そうだね。だいたいね、こんな感じじゃない」

「それじゃ、困る」

「無理言っちゃ困るよ、お客さん、ははは」

頭をフル回転させ
13時に到着した場合に
どんな状況になるか考えた。

昼食の時間・・・
荷物の搬入時間・・・

いや、待てよ・・・



しまったーーーーっ!!!!

俳優部の時間が30分・・・遅い。
俺たちのバスが13時なら
俳優部の車両が到着するのは

13時30分

到着して30分で着替えしてメイク?
いや、その前に飯?

む、無理だ。
絶対に間に合わない。
正確には30分じゃない、24分後には出発。

無理すぎる。
無理難題ってやつだ。


すぐさま、俳優部担当である
セカンドM木に電話する。


「おい!M木!今、どこだ!」

「今、電話しよーと思ってたんすよ!」

「おー、どうだ?早めに着くか?」

「到着予想時刻は
 
13時30分になってます!

「・・・やはり。
 24分で着替えてメイク。できるか?」

・・・無理です

「無理って言うな。策を練ろう」

「ちょっと相談します。かけ直します」

「うむ」

13時駅到着。
同乗しているサードI嵐に声をかけ
全車に現状と
準備にマキをかけることを伝え
俺はすぐさま駅に向かい
現場を確認し、
監督と相談する。


「行きの工程は準備工程です。
 この間に撮影照明の準備をしつつ、
 俳優部の芝居テストなんかを
 やれればと思ってます。
 トータル1時間30分ありますので
 楽勝ではないかと」

「あ、そんなにあるんだ」

俳優部が遅れそうなんて
口が裂けても言いやしない。
言うわけがない。
最悪は、着替えだけして
メイクも飯も電車の中で済まして貰う。
これしか方法はない。


と、携帯が鳴る。
M木からだ。


「なにやら、状況を説明するまでもなく
 車内では察知したらしくて
 僕がお願いをする前に
 すでに車内で着替えが始まってます!」

なにー!移動中にか!

はい!すさまじい光景です!

「すまん!苦労をかける。
           後で皆には礼を言う」

「お願いします!」

「で、到着時刻は?」

「変わらずです、13時30分です!」

信号二つくらい無視しろ

・・・ 無・理・で・す!

わかっているよ

× × × × ×

車内では弁当の匂いが充満していた。
スタッフに悪いなとは思ったが
もっと悪いことをしたのは
俳優部の二人であり
ヘアメイクと衣裳部である。
本当にすまない。
そしてありがとう。

思惑通り、
撮影照明の準備中に
食事とメイクをすることができ
現場的にはなんの問題もなく進行。
ガンガン飛ばすディーゼルの揺れに
眠気を覚えてきた俺だ。

だが、この電車撮影において
全ての情報を把握しているのは

俺だけ。

監督も把握しているが
それは演出的な部分であって
どの場所でどのシーンを撮影するか
この景色が何秒持つかなんて
数字的なことは全く知らない。

そう、俺だけが知っている。

小汚いメモ用紙に書かれた
俺にしかわからないような暗号文。
これだけが頼り。
俺がこれだけが頼りと言っているということは
30人からなるスタッフの全ても
このメモ頼りってことになる。
もし、風でこのメモが飛びようものなら・・・
僕は全くのでくの坊として
現場にデビューすることとなる。




「○○駅まで、後2分!
 次の駅間で海向けシュート!」

「へーい!後2分!」

「ここでの海向けは
 4秒、6秒、8秒のスリートライ!
 リテイクはその次の駅間で
 23秒のワントライのみ!
 都合4回のトライでOK狙います!
 
 
よろしくぅ!

へーい!

電車はこちらが狙った場所だからと
ゆっくり走ったり、するわけではない。
全く、通常通りの運行であり
電車的には
え?撮影?聞いてないよ
ってな感じでもあるのだ。
つまり、貸切車両を
引いているだけの状態なのだ。
こっちの都合なんてあったもんじゃない。
トイレだって行けないから。
行ったら戻ってこれないでしょ。

片道1時間30分。


「はい、間もなく海!ほんばーん!」








二人の背後に海が見えた。
あまり良い天気ではなかったが
海は青くて大きい。

大地と古都には
もったいないくらいの景色がそこにある。

おい、この撮影段取り仕込んだのは


スーパー制作部のS根さんと




俺だから。

今日撮影したシーン
S#96A 101 103 123