新・カチンコ日記2

根無し草男の映像日記

夜を越えて

9月5日(火)

■この日記は撮影終了後に香盤表を見ながら
 数ある出来事を思い出しながら書いたもので
 若干の思い違いや誇張や脚色が
 含まれていますのでご了承ください。

映画「Watch with me 卒業写真 夏篇」撮影日記

夏といえば太陽だ。
ギラギラと輝き
熱い光線を出し
地面にくっきりとした陰を作りだす。
汗は流れ
肌は焼け
ヘトヘトになる。

それが夏だ!

つまり、夏というと昼間のイメージが強い。

いや、熱帯夜もあるな。

そう、熱帯夜。
今日は今までの撮影でなかったことがある。
それは、ナイター撮影である。
ナイターとはそもそも
日本で作り出した造語らしいが
つまり、夜間撮影。
ナイトシーンの撮影がある。

ナイターがあるということは
一日の撮影分量が多くなるともいえる。

海外の撮影のように
1日の撮影時間に
規定やルールがないのが日本だ。
何時間撮影をやっても
出るのは文句で
オーバータイムによる
残業代は出ない。
出るのは夜食くらいか・・・

まあ、ナイターがあると
とどのつまりは辛い撮影であると予想される。

9月5日(火)【夜を越えて】

完成した映画を見ても
多分、いや、絶対に想像できないだろうが
今、この室内は30℃は確実に越え
40℃近くあるに違いない。

俺たちは主人公の自宅
という設定のロケセットにいる。




スタッフはおよそ30名。
そのほとんどの人間が
六畳一間の室内にひしめき合っている。
部屋中には照明が置かれ
真ん中にはカメラが置かれ
カメラの下には移動車があり・・・

はっきり言ってひでー状況である。

人はこれを地獄と言うのかもしれない。
そんな状況でもある。
が、ここは夏篇の芝居でも
かなり重要な場所であり
慎重な作業が必要な場所でもある。



でかい扇風機が置かれ
室内に生暖かい空気を送る。
普通なら、

「そんな生暖かい空気いらん!」

てな話しにもなるのだが
この場所ばかりは
そんな悠長なことを言っていては
死んでしまう。
それくらい熱くて、湿度も高い。



「あー、大変そうだ」



俺はどこか他人事だ。
現場にはサードのI嵐がカチンコを
セカンドのM木が現場進行と移動車を
見習いのK林が遠くで見ている。
もう、それだけで、入る余地が無い。

いても、プレッシャーを
与えるだけの存在である
チーフはいる場所がないのである。

都合、2階では撮影を。
1階で俺は次の日の予定と
俳優部の話し相手をすることになる。



「あー熱そうだ」


今日からほぼ3日間。
この地獄のような場所で撮影がある。
俺だけは地獄にいない。
地獄を遠くから見ている。

いや、厳密には見られる位置にいない。

がんばれ。



と、しか言いようがない。



「こぼしたら、次の日大変だから」



それしか、言えない。






1階から家の外を見ると
照明部が足場を組んで
外の窓からライトを当てている。
窓の外に追いやられたM木が
中に向けて声をかけている。
窓から大地が顔を出し
外にいる古都ちゃんを見る。
I嵐が今にも壊れそうな
屋根の上に乗り
小石を投げている。

なんだか撮影って大変ですね。

この大変そうで
一見無駄なことを思われる作業が
カットとなり、シーンとなり、
シークエンスとなり、一本の映画となる。



ああ、大変ですね、撮影って。


22時を過ぎた辺りで
草野風流保存会の方がのぞきにいらした。



「こげな夜までやっとるのか?」

「ええ、夜のシーンなんですよ」

「ほえー、大変なことだねぇ」

「ええ、大変ですね」

「あの人、屋根から落ちんと?」

「落ちるんじゃないですかね」



今日撮影したシーン
S#52 124 124A