新・カチンコ日記2

根無し草男の映像日記

晴れていればこっちのものだ。

9月2日(土)

■この日記は撮影終了後に香盤表を見ながら
 数ある出来事を思い出しながら書いたもので
 若干の思い違いや誇張や脚色が
 含まれていますのでご了承ください。

映画「Watch with me 卒業写真 夏篇」撮影日記

撮影にいつもと同じということはない。
常に違うことばかりだし
たった数分で状況が劇的に変化する場合もある。

かといって、普通の撮影というか
想像しうる状況というか
対応し得る、困難さのない撮影という日がある。
多分、恐らく、今日がその日なのだろう。


撮影場所は通常の街であるし、
通常の人数くらいのエキストラもいるし
時間制限のある場所もあるし
芝居のあるシーンばかりだし・・・



今回の夏篇撮影においては
この通常の撮影という場合が
極端に少ない場所・状況ばかりである。
畑の中での撮影ばかりであるとか
景色・天気優先の撮影であるとか
祭りのエキストラ1000人であるとか
学校内で子供たちの撮影であるとか
これからある、野球や剣道の試合であるとか。

こうみるだけでも、
この映画の夏篇というのが
盛りだくさんであり
多分、完成された映画の中でも
夏の印象の強い映画になるであろうと思う。


その夏篇も今日辺りでちょうど中盤戦。

9月2日(土)【晴れていればこっちのものだ。】

もう、この台詞には飽き飽きしていると思うが
何度でも言う。
天気が良いと撮影も進むし
天気が悪いと撮影は進まない。

今日は、最高の天気だ!

そして、撮影隊は久留米市街へと進む。
久しぶりにホテルから30分かけての移動。
ロケバスは繁華街久留米に向かう。

いや、決して、
草野の田園風景に飽きた訳じゃないが
やはり、シティーボーイである僕としては
街が恋しいし、
街が大好きであることに間違いはない。




とある、喫茶店前の路地。
ここで、主人公がヒロイン”ひとみ”に
出会う前のカットを撮影する。

街中をデートする二人。

で、街中なので
数人のエキストラを仕込む。
通常、エキストラなどの動きや芝居は
監督ではなく、助監督が主に担当する。

特に、今回はセカンドM木が
エキストラ名人なので
基本線のところは任せている。


現場ではカメラアングルが決まりつつある。
カメラ横に立ちエキストラの配置を考え
シーバーで指示を出す。


「M木、エキストラ入れて」

「手前通行ワイプと奥手ワイプは行ったり来たり
 路地の通行に一組、奥から手前につーっと」

「了解!」

ああ、なんか普通だ。
通常の撮影感が漂う。
急に体が楽になった気がする。

「演出部、今日は巻くよ、
 巻いて巻いて、沈み橋行くよ!」

「了解!」

昨日、撮影できなかった沈み橋。
なんとしても、今日の天気で撮影したい。
いや、今日を逃すといつ撮影できるかわからない。
沈み橋には行くだけで1時間30分ほどかかる。

今日の撮影を極端に早く終えて
移動しなければ間に合わない。

香盤上は夕方前、14時とか15時終わりの予定。

だが、沈み橋への移動を考えると
12時ないし、13時には終えて移動しなければならない。
このことは監督にも事前に伝えてあり
監督も今日の撮影を巻きモードでと考えている様子。


が、あまりにも早く終え過ぎた。
次の撮影地のお店が開いてない。

予定より1時間も早いから。





もしかして、間に合わない?






そんな俺の思いとは裏腹に
現場は待ちモード。

ジュージャンが開催された。


”ジュージャン”とは?
ジュースじゃんけんの略であり
ジュースを買いに行く人間を決めるじゃんけんである。

このジュージャンは
参加人数が増えれば増えるほど燃える。

負けた者は
その参加した人間全てのジュースを
自腹で買わなければならないからだ。
下手をすると20人くらいのジュースを買う羽目になる。
ただでさえ、2000円以上出費するのに
一人一人欲しいジュースの銘柄は違うし
運ぶのにも大変な労力が必要だ。

だから、燃える。

このジュージャンには
上下関係も師弟関係もない。
上司だろうが、部下だろうが
勝った者が発注し
負けた者が受注するのだ。

もちろん、俺が負ければ
愛想良く、ジュースの希望をメモして
袋を抱えて走ってジュースを買いにいく。

これがジュージャンだ。

類似品にアイスジャンなどがあり
○○ジャンとつけるだけで
手軽に楽しむことができる。

くれぐれも
PCジャンとか焼肉ジャンとか
高価な品物でジャンケンしないよう注意して欲しい。
また、50人規模でのジュージャンも
大変危険であり
過去に一度、負けたことがあるが
当時、僕はペーペーだったので
わざわざ、
上司から金を借りてまで
ジュースを買った記憶があり
ジュースを運ぶだけで
台車を借りたりして
もうそれはそれは大変な思いをしたのだ。

だから注意して欲しい。

ま、でも勝てばいいのだ。
勝てば。

人生、何事も勝てば官軍なのだ。





そんな訳で
巻きに巻きで撮影を進める。
他部署の協力もあり
撮影は昼過ぎには全部終わる。

これなら、沈み橋に移動できる!

久留米市街で協力してくれた
エキストラの皆さんもありがとう!
皆さん、カンが良くて大変助かりました。








沈み橋。
もちろん、
事前に沈んでないとの情報を得ての移動。
多少、橋のキワまで水があったが
撮影できない状況ではない。

ここで撮影するのは
主人公とヒロインの芝居なのだが
もう一つ時間縛りのある代物がある。


それは、目の前の鉄橋を走る電車。


いわゆる電車狙いというやつだ。
いくら、野蛮かつ横暴な我々でも
電車のダイヤまでは変えることはできない。

いや、たまに変えるけども。

まあ、今回は変えることができなかった。



東京に居る間に
助監督見習いのK林が
狙う電車の時間を調べあげていた。
夕方の時間帯に
その電車は3本しか走らない。
しかも、1本は左から右、2本は右から左。

つまりは、2トライしかない。




「電車狙い1本目!
 15時36分下手から上手!
 到着まで後10分!」

「へーい!」

「電車狙い2本目!
 16時53分上手から下手!」

「へーい!」

途中、天候が悪くなり
中断も余儀なくされたが
電車は関係なくやってくる・・・


「3本目が18時08分・・・
 ここも狙うことにしよう」

「しかし、天候が悪ければ無しだね」

「ちょうど雲も切れ掛かってます、
 いけるかと・・・」





ほぼ全ての芝居を撮影し終え
3本目の電車を待つ。

天気は?

徐々に、明るくなっている!



「S根さん!電車見えた?」

「まだ!」

時計の針は08分をとっくに過ぎている。
そう、08分は駅を出る時間
この陸橋に着くまで
約5分ほどかかるはず。
しかし、電車のスピードによって
若干の誤差は必ずある。


「3本目まで後数分!スタンバイ!」

「はせさん!電車見えた!」

「監督、着ました!」

「よーい!!!スタート!!!!!」




今日撮影したシーン
S#22 21 20 69A 69B