新・カチンコ日記2

根無し草男の映像日記

奇跡を呼ぶ男

8月26日(土)

■この日記は撮影終了後に香盤表を見ながら
 数ある出来事を思い出しながら書いたもので
 若干の思い違いや誇張や脚色が
 含まれていますのでご了承ください。

映画「Watch with me 卒業写真 夏篇」撮影日記

俺は偶然や奇跡は信じない。
偶然や奇跡にも必ず、
その結果をもたらした必然があり
その必然をもたらす要因も
必然から生まれるもので、
その要因と必然を知らなければ、見なければ、
自分にとってそれは、いきなりの出来事であり
偶然とか奇跡とか言う言葉で
解決されてしまうことなのだと思う。

大体、その必然や要因を調べる作業は
非常に面倒だし、困難だし、
結果がある以上、それを探る作業は
苦痛でしかない。

つまり、奇跡は起こらないのである。


8月26日(土)【奇跡を呼ぶ男】

しかし、それはまさに【奇跡】であった・・・


約1ヶ月前からの仕込み。
度重なる打ち合わせ。
何度も何度も考えあぐね
出した机上の空論と結論。

エキストラ総数約500名

ある祭りの再現のために
夏篇一番の見せ所のために・・・



まず、一番の心配ごとは夕立だった。
夕立というくらいだから
その雨は夕方に降ることが
決まっているようなもので
撮影の狙いが夕方である以上、
この心配は避けて通ることができない問題だ。

そう、昨日の撮影もちょうど夕方に降った大雨で
2時間から3時間の撮影中断を余儀なくされたばかり。
今日だって、同じことが起きないとは限らない。

もう一つの心配が温度だ。
総勢500人のエキストラが集まるわけだが
ただでさえ暑い夏に
大勢集まれば更に暑いのは当たり前であり
エキストラにはご老人も子供も多く含まれている。
気分が悪くなる前に帰るという
通常の行動は映画に参加しているという意識から
なかなかすぐにはできないもの。

つまり、昨日の灼熱の太陽が顔を出せば
下手をすると10名以上は具合の悪くなる方が出る。


ちょうど制作部と演出部とで
心配する方向が違うのであるが
対応策は近い。



どうしたら、気分良く参加してもらえるか?である。



500名からの人間の喉を潤すために
どれくらいの水分が必要だろうか?
簡易トイレもいくつ置いておこうか?
どうしたら危険の少ない方法を取れるだろうか?
こちらの意図を知らせるための最善の方法は?



全てを机上で固め
現場で壊す。



この祭りの撮影だけで
俺は2日間の予定を組んでいる。
それだけ、
重要で大変な撮影であると考えたからである。
俺的に言えば、
このシーンを終えることで
そのほとんどの仕事を終えたと言えるくらいに
この撮影に時間も労力も全てを賭けた。


草野風流再現撮影。

福岡県久留米市草野町で
2年に一度行われる祭り。
夏休みに入っての最初の土日に開かれる。
神社から出された神輿を
お仮屋まで運ぶ工程と
神社まで戻す行程との二日間行われる。
中でも特筆なのが
行列と獅子、そして面である。
細かくは実際に見てもらわないと
わからないだろう。

だから詳しくは書かない。

まあ、映画を見てください。

で・・・

10時
草野風流保存会の皆様との
打ち合わせに公民館に向かう。

監督を含めたメインスタッフと
保存会の主要メンバーとで
本日行われる
今回の映画の中でも最大級の
行事の段取りを行う。

が、この件に関しては
前々から準備をしていたこともあり
公民館での打ち合わせに関しては
ほとんど僕の講演会状態。

「以前、お話した通りですが・・・」

「先日お渡しした図と同じものですが・・・」

「まあ、細かいことはいいけん。
 どのみち現場で修正があるとやろ?」

「仰る通り!」

僕らは意気揚々と現場に向かった。

実地での打ち合わせ後。
現場から望む耳納連山が黒く覆われた。
また、暗雲が迫っているのだ。
保存会の皆さんも口々に

「今日は夕立がくるばい!」

と言っている。
いや、夕立が来ると困るんですけど・・・
だって、今日の撮影は夕方設定なんですもの。
夕方じゃないと撮影できないんですもの。

天気予報に夕立の時間は表示されない。

ただただ空を眺めるのみ。



しかしだ、俺はこうも考えた。
夕立がもし、早めに降ってくれれば
灼熱の温度もかなり下がり
熱射病や熱中症の危険もなくなるはずだと。

そうとなれば早く降れである。

そして、早く止め。


そんなにうまいこと天気がいく訳もないし
祈っても誰に祈るのかわからないし
だいたい神様がいるのだとしても
俺の言うことを聞くとは到底思えない。

つまり奇跡は無い。





14時過ぎ。
空に暗雲がやってきて
少し早い夕立が降ってきた。

17時ちょっと前。
雨は止み、撮影はスタンバイ体制に入った。








俺は、奇跡を呼べる。






そう、この空は断言してくれている。


今日撮影したシーン
S#67