新・カチンコ日記2

根無し草男の映像日記

荒野に立つ(2)

5月15日
息子を連れて公園に行く。
公園は小学生にほぼ占拠された状態だが
果敢にも真ん中へ挑む息子。

走り回る子供たちの後を追いかけようとするが
そのスピードには到底追いつきはしない。

それでも本人は楽しいようだ。

俺の手を引き
滑り台のある山に連れていく。
頂上に立ち、滑りたいのかと思えば

「パパ、滑って」

え?俺?お前じゃなくて?
全く意味がわからない。

何度か小学生が滑る姿を見て
その真似をしようとしたらしいが
小学生は滑り台を立って滑っていて
さすがに怖いらしく無理と判断したようだ。
で、思いついたのが”俺”に
真似をさせようという魂胆だ。
だが、ちょっと待て
俺が高校生、いや、中学生ならまだしも
4月に33歳になったおっさんだぞ
立って滑り台を滑るなんて芸当は
できるかもしれないが
できることなら控えておきたいことだ。

だから、俺が座って滑ろうとすると

「立って、立って」

と立たせようとする。
おい!パパを怪我させようとする気か?
ただでさえ階段の上り下りで
足にきてるんだぞ。

「○○くん(息子の名前)座ってすべりなよ」

「いや、怖い」

「・・・」

「パパ、滑って!」

「じゃ、一緒に滑る?」

「いや」

「ん?パパが滑ったら○○くん上で一人だよ」

「・・・いや」


そういって俺の手を引き階段を下り
今度は下の坂から昇ろうと試みる。
しかし、案の定無理。
ケタケタ笑いながら砂場の方へ移動。
いちいち砂を払いながら
砂場にあった誰のか知らない
おもちゃで穴を掘り出す。

そして、埋める。

その繰り返し。


これがとっても面白いらしい。

アンダーテイカーに代わって
地獄の墓堀人にでもなるか?
なっても困るけど。


夕方18時まで散々遊ばせたが
なかなか帰ることに同意しない。
他の子供たちはもうほとんどいなく
息子一人が砂場にいるというのに。

「ね、帰ろうよ。おうちでご飯食べよう」

「いや!帰んない!」

「ママが待ってるから」

「待ってない!」

「・・・待ってるって」

「いや!」


こういうことを予想して
奥さんがアンパンマンジュースを
渡してくれていた。
これを出して、公園から引き離そう。

「ほら、アンパンマンジュース!」

「あ!」

「飲みながら帰ろうよ」

「いや!飲まない!」

「え?いらないの?」

「いる!」

「じゃ、帰る?」

「帰んない!ここ、ここで飲む」


あまりの会話の成立さ加減が面白くて
公園内でアンパンマンジュースを飲ませてしまう。

ついこないだまでは
ただ泣き叫んだだけで
ジュースに吊られて公園を出てたのに・・・
子供の成長は恐ろしいものがある。
2年前は小動物以下の行動しか
出来なかったのに
今では会話をして
自分の意思を相手に伝えられる。


これで、トイレに行きたいかどうかも
教えてくれれば完璧なんだが・・・



で、仕方がないから
強引に担いで公園を脱出する。
担いでいる間中
大声で泣き叫ぶ息子。

これじゃあ、誘拐犯に見えてしまうよ。

抱っこした俺の顔を殴るし
鼻水は俺の服で拭くし
『あっちいく!あっちいく!』
叫びっぱなし・・・

・・・やれやれ。





もう後、数年もすれば
息子は自分の判断で行動し
一人で公園にも来て
一人で遊ぶことにもなるだろう。

そして、自分の判断で
将来を考えて決める。

まだまだ先のことと思っていると
その時はすぐに来てしまうんだろう。
たった一人で荒野に立つ時。

俺は何をしているのだろうか?


そんなことを考えたヒゲ面が
公園のベンチに座ってる。




じゃ!