新・カチンコ日記2

根無し草男の映像日記

愛のカタマリ(2)

3月14日
特別急行に飛び乗り
向かった先は奥さんの実家。
○○県○○市。

滞在時間は2時間無い。
11時着。2時間後には
もう東京に向かわなければならない。

試写があるのだ今日は。





……前の晩(13日深夜)






僕は試写を終えたVPの
オフライン修正と
次の日にある、
CM試写のオフライン編集作業を
平行していた。


「今、病院に連れていったから!」


奥さんのお母さんからの電話。
はっきり言って仕事どころではない。
僕の頭の中で三つのことが渦巻いて…




「あ、○本君!OLのタイミングが違うよ」
「はい、スイマセン」




「シークエンスごと切り19分ですね」
「プレミアはやっぱりなかなかのもんです」



「今、病院着いた」
「そうか…頑張れ」
「うん」






CM   VP   奥さん。

VP   奥さん CM。

奥さん  CM  VP。



頭の中で優先順位がコロコロ変わる。
しかし、この段階で俺はまだ
東京を離れる予定ではなかった…

深夜1時00分
1通のメールが届いた。
奥さんのお母さんからだった。












0時40ふん。

3050グラムの女の子誕生。

おめでとう。















家族が一人増えた。










「今、生まれたよ」

「おめでとうございます!」

「おう」

「今日、行かれるんですか?」

「いや、行く時間無いだろ」

「え?試写は夕方だから、5時間ありますよ!」

「…なるほど」

「行きましょうよ監督」

「○本。お前いいこと言うなぁ!」


その分早くオフラインを終えたいという魂胆が
裏にあったのは後日になってからわかった。












僕は猛烈ダッシュで電車に飛び乗った…

まだ行くところがある。
行かなきゃならないとこがある。

ただひたすらに
駅を走った。
1分、いや心の底から
1秒でも早く行かなきゃならないと思った。

眠気は覚め
気分は高揚
眼は血走り
足はガクガクしていた。

○○県○○市○○駅では
すでに奥さんのお父さんが待っていてくれた。



「まっすぐ病院に向かうから」

「はい」




病院までの15分。
車の中で猛烈な睡魔に襲われた。
でも、眠れなかった。
眠れるわけもない。



面会時間の2時間前だった。
もしかして拒否される?

だけど、その2時間待っている時間はない。
お父さんがナースステーションに
掛け合ってくれた。






「赤ちゃん、見せてくれるって!」

「え?本当ですか!」







新生児室のガラスの向こうに
新しい家族、我が娘が眠っていた。
俺にそっくりだ。


将来、確実に俺は娘に
文句を言われるだろう。
なんで、そんな鼻なのよ。



仕方ない、だって俺の娘なんだから。
すぐに名前もつけてやらないとな



疲れきった奥さんに会う
前回よりすばやい出産で
負担も少なかったようで
ふらふらしていたが
元気そうだった。



10年前には想像もしていなかった
現実がここにある。
俺には奥さんと子供が二人いて
やっと『演出』として仕事ができるようになった。
もう、親父になっているのか
まだ、親父にはなりきれていないのか

でも、ただ、ただ、嬉しい。

東京に帰る前
ほんの少しだが息子にも会う。
玄関先で俺の声を聞き
怪訝そうに顔を出した。

「… !!」

ニヤッとして飛びついてきた。
暫く俺から離れない息子。

でも、ごめんな。
もうすぐ、
パパは
行かないとならないんだ…




















東京へ向かう電車の中。
一通り知り合いやら友人やらに
報告メールを出す。

少しでも睡眠をとるつもりだったが
メール出して返信してたら
すぐに時間が経ってしまう。

携帯の電池が切れたので
10分だけ寝る。

そして、クライアント試写へ…

帰宅して、VPのオフライン修正を…







また、明日もVP試写がある。




明日からCMの本編集もある。





なんだか知らないけど
ありがとう。

ありがとう。

じゃ!