新・カチンコ日記2

根無し草男の映像日記

カメラカー!カメラカー!part1

この日記は撮影時の香盤表を元に

薄れゆく記憶が消えないうちに

思い出しながら書き上げたものです。

一部、実際と違う部分や記憶違いなどが

ある場合もあります

日本の自転車泥棒 JAN」 第2部撮影日記

始めに、何故、第2部か?

それは昨年末の異常に全国で大雪が降ったあの時期

この映画の第1部撮影は始まっていたからである。

しかし、僕はその大雪の第1部に参加していないため

あえて区別するために今回の撮影を第2部とした。

1月19日(木)6:00 ホテルロビー

カメラカーってのはなんだろうか?

文字通りカメラを積んで撮影しながら走れる車のことである。

そして、このカメラカーは今回の映画には

欠かすことのできない必要不可欠な機材でもある。

今日の撮影は、ほとんど全てのカットで

カメラカーが必要である。

つまりは、今日一日は自転車が走りまくるということだ。

杉本哲太さん扮する主人公鉄男は

自転車を盗みながら南へ南へと進んでいく。

山を、谷を、田を畑を。

颯爽と、痛快に、時には不快に・・・

この自転車の気分を撮影するにはカメラカーが一番。

そして、僕の気分を高揚させてくれるのもカメラカーだ。

カメラカーには荷台の他にラジエターのある前部と

車の屋根の部分にカメラを設置することができる。

これで、自転車を前方から後方から横から

また上方から撮影することができる。

だが、カメラカーの撮影には

細心の注意を払わなければならない。

他の車の飛び出し、通行人の飛び出しなどだ。

これは通行量の比較的少ない場所なら

割と楽にコントロールできるのだが

そうそう、そういう場所ばかりでもない。

駅前ロータリー。

カメラカーをセッティングし路上に出す。

そして、自転車に乗った岩崎をスタンドインにして

アングルを確定させる。

その間、俺は荷台で道路状況を把握し

交通整理人員の配置といつどんな時に

GOをかけるべきか判断する。

「監督!次の青信号で行きましょう!」

「了解」

「はーい!まもなく青信号!交通ブロック!」

「了解!」

「ブロック完了!青信号待ちます。ブロック隊、辛抱我慢!」

「逆サイド信号黄色!まもなく青信号!」

「スタンバイ!」

固唾を呑む瞬間だ。

俺は視点を信号一点に向けトランシーバー片手に

大きく息を吸い込む。

信号が変わる。

「信号青!よーーーーい! スターーーーーッ!」

哲太さんの自転車とカメラカーが同時にスタートする。

工場のような倉庫を背景に

自転車が滑る

そして、そのまた背後には朝焼けが広がっている。

カメラカーから見たその光景は

とてつもなく美しい。

きっとフレームにもその美しい光景が映っているはず。

こういう、状態だともう一回と言われても

よし!とすぐにやる気が出る。

だって、絶対にかっこいいカットだと思えるから。

その為の努力は惜しみたくないから。

「もう1回やるよー!」

俺は、荷台からトランシーバーで声をかける。

「ブロック隊配置について!もう一回!」

「了解!」

「巻くよ、朝焼けが終わっちゃう!」

「了解!」

「カメラカーUターン!ブロックして!」

そう、すばやくスタートに戻るためには

その準備の際もブロックしないとならない。

はっきりと大迷惑な奴らだ。

すいませんとしか言いようがない。

今日は一日、この段取りを繰り返すのだ。

様々な場所で、様々な時間で。

一つの間違いで大きな事故につながるカットばかり。

今日は、比較的交通量の少ない場所だから

ブロック隊もここで慣れておくと後が楽だ。

が、しかし、俺ときたら

ただ、荷台から命令するだけじゃないか。

トランシーバーがなかったら

ただのヒゲ面のおっさんじゃないか?

たまによくわからない。

ただ、大声出して命令しているだけ。

確かに、香盤のやり繰りや

スタッフ間の折衝をしてはいるが

カチンコを打つわけじゃないし

あまり走りも回らない・・・

たまに思う、『こいつ本当は何もしてねー』って裏で

言われているんじゃないかなって・・・

そんなことを考えていてもしょうがない。

今日は昨日残した分を撮影しないとならない。

当初の予定よりも時間にして2時間強のプラス。

これをなんとか消化しないと

これから先の撮影に多大な損害を与える可能性がある。

それは、監督も充分に承知していた。

「長谷君、今日の分量を消化したらすごいよね?」

「え・・・」

「え、駄目なの?大した量じゃないの?」

「いや・・・」

「あああ・・・」

すいません、監督。

大した量ではあるんですが

何せ全ての日程が大した分量なもので

今日だけを取って考えてしまうと

今後大変なことになると思ったわけですよ。

だから、その質問にすぐに賛同できなかったんです・・・

わかってください。

ロケバスで少しの間身体を暖め

また、カメラカーの荷台に乗る。

吹きすさぶ風が体温を奪う

思考は撮影だけに制限され

他のことが考えられない状況に

否が応でもなってしまう。

ブロック隊をどこに配置し

どうしたら撮影がうまくいくか。

「現場到着!カメラカースタンバイ!」

次々と移動を繰り返す。

自転車は走り

俺たちも走る。

過ぎ去る景色を荷台から眺め

震える身体に渇を入れる。

「ほら、そこ!ブロックできてないよ!

ちゃんとブロックして!」

「シーバー取れたらちゃんと返事!」

「後ろ見てないで前見てブロック!」

「カメラカーの後ろに入らない!」

「日が落ちる!走れ!」

日が落ちてひと段落するどころか

我々はとある食堂内で撮影開始。

近くにお住まいの方々にエキストラ出演していただく。

「長谷君に任せます。エキストラの動きは」

「はい!」

と、まあ、言われる前に動きをつけて

監督に見せてみる。

「うん、じゃあ、本番」

「うす、了解!やるよー ほんばーーん!」

監督、このカットは使ってくださいね。

僕演出のカットでもあるので・・・テヘ。

本日撮影したシーン

55 55A 55B 55C 65A 65 66 67 68 69 70 101 95 96 71