新・カチンコ日記2

根無し草男の映像日記

オンタイムッ!

2005年11月2日

11月の朝は寒い。

ましてや僕の目の前は海が広がっている。

暖かい訳がない。

あまりの風で制作部が用意してくれた

カセットコンロも役立たずだ。

みそ汁はいつまでたっても湯気すら出ない。

うう、寒い。

サムイ島かここは。

いや、サムイ島は南国なので

実際は暖かいのだが…

子きつねヘレンと愉快な仲間たち

The ShortMovie 撮影日記(5)

森三中』主演

『母のエピソード』

やたら視線を感じる。

え?自意識過剰だって?

僕もそう思う…だけど本当にそうだったんだ。

8:00

撮影開始。

小型カメラでの主観移動。

毎回動きに変化があるためカメラに近寄れない。

カチンコはロンギッシュ氏に任せて

僕は一歩引いたとこにいた。

煙草に火を付ける。

背後に視線。

後ずさると視線も追ってくる。

僕の視界ギリギリの端っこから見てる、見られてる。

どんどん近づいてくる視線。

「勘弁してくださいよ」

「すいません、気になりますか?」

「もちろんです!」

メイキング班のカメラだ。

それも放送用のβcam。

「なんで僕なんか撮ってるんですか!

監督とかいるでしょう!」

「いや、色んなスタッフがいて

色んな役割があるて見せたいんですよ」

「……」

「で、今日は長谷さんを」

「……」

お互い仕事である。

しかたないと言いたいが

気になってしまい仕事にならない。

ついついカッコつけてしまう?

いや元々カッコイイので…

すいません、失言でした。

まあ、そんな訳で視線を感じながらの現場。

夜には昨日の現場に移動しなければならない。

視線なんて気にしていたら

デイシーンすら満足に撮影できやしない。

しかも今日は…

12:30

僕らは浜辺を走り回り

飯押しでガンガン撮影していた。

今までの撮影と違い今回は押し気味で進んでいる。

なんとか昼食の時間を減らすことで

押された時間を取り戻し

尚且つ飯後に予定されていたカットを

撮影し巻きに転じさせたい。

「ボート出すよー!」

今日は森三中の大島さんを

危険にさらさなければならない。

大島さんを海に出す…

元々飯後に準備して撮影する予定だった。

だが、香盤を戻すため飯前に入れた。

戻せ香盤!追い付け香盤!

ライフセーバー入水!」

「俺も乗る!シーバー貸して!出港!」

13:00

朝から気になっていたカセットコンロ上の芋煮。

長いこと煮込まれたか

かなりいい案配に出来上がっていた。

「長谷くん、少し巻いてるよね?」

監督が声をかけてきた。

「……」

「え?押してるの?」

今までの作品は全て『マキ』で終わっている。

そのことは少なからず

監督にはプレッシャーだったことだろう。

しかし、僕は優しい言葉を言えるほど

素晴らしい人間ではない。

「いえ、巻いてません。オンタイム、香盤通りです」

監督の表情が一瞬曇った。

すいません。嘘はつけません。

「頑張りましょう。夜もありますからね」

「うん…」

「開始しまーす!」

演出部として監督を助けるためのあらゆることをするが

同時に演出部として時間内に

必要カットを撮影しなければならない。

合反することのようだが

それが仕事だ。

オンタイム。

全てがオンタイムなら

今日は23時終了になる。

どうにかして巻いていかないと深夜だ。

日が暮れはじめた…

夕方の太陽を使い早朝シーンを撮影。

太陽が完全に沈む前にナイター撮影。

森三中さんが動物抱えて走っる。

まだまだ一日は長い。

最後までオンタイムか?

× × × × ×

最後は昨日あえて撮影を切った室内シーンから。

すでに昨日やった続きであるから

準備も早く、カメラ位置もすぐに決まる。

ただ、森三中さんの衣装・メイクが

通常ではないので暫く現場で待つ。

これは予想されたことで

約1時間くらいは仕方ないと考えていた。

ついでに夕食でも食おうかと。

19時が20時になりかけた頃。

いよいよ撮影再開。

海でおぼれかけた大島さんのカットから。

はっきりいってとんとん拍子で撮影は進む。

読みとしては最高でも23時かなと。

すると、大慌てで制作H君が走りこんできた!

「は、はせさん!」

あまり、CMでは2日間連続の撮影は無いから

かなり疲労困憊の表情だ。

「どうした?人生相談なら明日以降にな」

「違います!申し訳ないことが・・・」

そのただならぬ表情と疲労した眼が

僕にその話は聞きたくないと思わせた。

「な、なにー!」

その話は驚愕に値するものだった。

本来スタジオであるはずの物件なので

この場所は多少の静かさは要求されるが

24時間使ってもOKな場所なはず。

だが、しかし、だが、しかし!

ちょっとしたトラブルから

スタジオが激怒!

23時までに完全撤収しろ!

完全撤収とは機材も人も完璧に

その場所から移動し終わること。

内容によっては撤収に2時間以上かかる。

そして、また、

こうしたスタジオとのトラブルも割と日常茶飯事で

もちろん我々のミスなのだが

こうした○時切りという制裁はよく受ける。

平謝りのH君だが

そんなことで僕が怒っても仕方がない。

充分にスタジオの人に怒られたのだろうから。

ただ、この撮影が23時までに

完全撤収できるかどうか・・・

あまり、巻きで撮影を進めてはこなかったが

そうとなればやらねばならないだろう。

方法としてはいくつかある。

スタッフに共有の情報として

23時完全撤収を伝える。

そして、自主的に巻いてもらう。

もうひとつは、

我々がばんばって巻きをかけ

クオリティを下げることなく終わらせる。

僕は今回の撮影ペースを考えて

二つ目の方法をとることにした。

「ロンギッシュさん!」

「んん?」

時間切りの話しには

「あほか!」

と呆れていたが

スタッフに言わずに巻く案には賛成してくれた。

よし、やろう!

23時完全撤収まであと2時間。

残るシーンは二つのみ!

命題

1時間で2シーンをあげろ!